第百七十九話
銀髪の髪の男は歯を出して笑う。
「おい。翼を狙え」
そう彼は指をすっと前に出し竜を示す。
兵は頷きバリスタと呼ばれた大きな弩を操作する。
巨大な矢が竜の翼に刺さる。
痛ましい鳴き声が響く。
「おーおーやればできるじゃん。翼膜が破れたな」
そう彼はにやにや笑う。
「次は残った方の翼」
そう彼は兵士の肩を叩く。
同じ様に弩が操作され残った翼にも巨大な矢が刺さった。
竜はもう満身創痍だった。小さな矢だって何本も大きな体に刺さっている。
それでも尻尾を振ったり突進したり周りについた兵を振るい落そうとした。
それでも纏わりついてくる兵の勢いはとめられない。
飴に群がる蟻みたいだ。
「よし! 装填しておけ。どうせ二台しかないんだろ」
彼は肩を鳴らす。
「……さて俺は竜に止めを刺してくるかな」
そうルーシャスさんはゆっくりと竜に向かって歩いていく。
兵達がざわめく。竜を包囲していた兵の群れが道を開ける。竜に纏わりついていた兵も黒騎士を見ると何故か我を争う様に逃げ出しはじめる。
私もこっそり彼の後ろをついて行った。
夕焼けの大地に竜が伏している。
黒騎士が近づくとヴァルディングスが唸り声をあげる。
「よーどうだ人間にここまで追い込まれる気分は?」
彼は小さく笑う。
「言葉も出ないか。くくっどうせ言っても俺にはわかんねぇんだけどよ」
そう銀色の髪をかきあげた。
『ほざくな人間』
そう竜が話した瞬間。彼は跳んだ。
ヴァルディングスの翼に乗ったのだ。
それから彼が一気に剣を振りぬいた。
信じられない光景を目にする。
兵達も唖然とした表情で口を開けていた。
片翼が切り落とされたのだ。あの巨大な翼が。
大量の血とともに翼が地面に落ちた。足に振動が来た。
竜の悲鳴が空に響く。
銀髪の剣士は平然とした顔で足元の竜を見つめる。
「いつまで最強のつもりだ」
そう血に塗れた顔で銀髪の黒騎士が呟いた。




