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第百七十四話

ハンスは結婚した。それに子供も生まれた。

可愛い子供達だった。

私もよく遊んであげた。


潰したくないからずっと伏せてるだけだったけど。

もう領土を広げる必要は無くなった。

後は内政だけだ。


でもその時からハンスは怒った顔をしたり難しい顔をする様になった。

怒鳴り声が増えた気がする。

私と一緒にいる時間もゆっくりと減っていった。


彼の皺が増える度にゆっくりと。


彼は玉座に座り書き物をする。不思議な机なもあるんだな。

彼が作ってくれた執政の場を眺める。

私と一緒に政治が出来るよう造ってくれた場所だ。


『ねえねえ。たまには遊ぼうよ』

そう彼が作ってくれた大きな毬を転がす。

それがむなしく絨毯に流れていった。


『……じゃ、じゃあ釣りに行こう? 何時でも飛べる』

そう前かがみになる。


『そ、それならさ』

「よしくてくれよ」

そう彼ははっきり言った。


「忙しいんだ」

昔のハンスからは想像も出来ないくらい冷たい声。


「それにそんなので楽しめる程もう子供じゃないんだよ……」

彼は書き物から眼を離さず言う。

「税金や法律の制定。騎士の雇用。やることは山程ある」


そう彼は腕を止めずに言った。

「まあ。お前にはわからんだろうがな」

溜め息まで吐かれた。


『り、理想の国に近づけそう? いつか言ってたよね。誰も傷つかず、誰もが夢を見れて、誰にでも機会が平等な理想の国。そのために頑張ってるなら仕方ない』


何が仕方ないなんだ。


彼は大きな口をあけ髭をさする。

「あー。そんなことも言ってたっけな」

間延びした声。


「夢見てた時もあったなあ」

その言葉に愕然とする。

「おいおいそんな顔するなよ。若気の至りさ。俺も現実を知らなかった。だから本心からそう言えた。だからみんな俺を信じてついてきた。だけどな」


彼は首を鳴らす。

「こうして一番上に立ってみると」


彼は欠伸すらした。

「他人や弱者なんかどうでも良くなるな」

その言葉に瞳が震える。


「だってそうだろー。考えても見ろよ。今までだって人より優れた人間なんていくらでも歴史上にいただろ? 何で手を差し伸べなかったと思う? 俺と同じ気持ちになったんだよ」


彼はつづける。

「自分さえ幸せになってしまえば他人なんてどうでも良いって気持ちに」


これがあのハンスか。あの理想に燃えてた彼なのか。

「そんな顔すんなよ。『あの時は本当にそう思ってた。』これで良いか?」


そう淀んだ瞳を浮かべた彼にはもう昔の面影なんて一欠けらも残って無かった。

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