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第百七十二話
「ぶわははは! もう連戦連勝ですな! のうヴァルディングス君?」
そう彼は陣中の床几に座って大笑いする。
『お前は何にもしてないだろ……』
かしずく兵達も増えた気がする。
八千はいるんじゃないだろうか。
もうイベニアの立派な将だ。
「もう王の御子息たちの中で一番の武勇ともっぱらの噂で」
「そうそう。何せ竜を操る人間なぞ前代未聞です。神にも通じる力です」
「王位の継承者には竜将ハンス様こそ相応しい」
とりまきも増えたな。
「……俺はイベニアの王にはならん」
臣下達の顔色が変わる。
「あんな裏切りと嘘に塗れた国の王になるつもりは毛頭ない。それに兄貴達がいるさ。わざわざ末弟の俺が即位する素振りを見せて国に混乱をもたらす必要もあるまい」
彼は椅子から立ち上がる。
「俺が見るのはもっと先だ。あの国ですら俺には狭すぎる」
そう彼は剣を地面につける。
「俺は俺の国をつくるぞ」
その言葉に臣下達がたじろぐ。
彼の瞳には野望の火が燃えていた。




