第百七十一話
雷が降る雨の中、軍の前に降り立つ。
兵達がざわめく。ボウガンを構えてる兵もいる。
「止せ! やめろ!」
聴きなれた声が陣中から響く。
「ヴァルディングス……」
そう雨に濡れたハンスが驚きの表情を浮かべてる。
『お前にもらった魚だがな……』
彼は眉をひそめる。
『腐ってて食えたもんじゃなかったぞ』
鼻息を鳴らす。
『美味い魚を食わせるって約束だったろ?』
彼は黙っている。
『この戦いが終わったらたんまり食わせてもらうからな。仕方ないから協力してやる』
その言葉に彼の顔がほころぶ。
『勘違いするなよ。魚のためだからな』
ハンスは喜んで私の脚に抱き着く。しかし途中から表情が変わっていく。
「でも良いのか? お前は戦いが怖いって」
鼻を鳴らす。
『友達だからな。友達は……』
こんなこと言うのは初めてだ。
『困ってる時は助け合うものだ』
その言葉にハンスは強く頷く。
「よし!」
そう彼は私の首に乗る。
『なに? 乗るのか? 落ちるんじゃないか?』
「しっかり鱗をつかんでるから大丈夫だ。それにお前は乗り心地が良い。ふふ名馬に跨る王子は数多くいるが竜に跨る王子は世界広しといえども俺しかいまい」
やっぱりこいつ馬鹿だ。馬鹿人間だ。
この戦、大丈夫だろうか。
しかし魅かれてしまったものは仕様が無い。
勝たせてやるか。
そう雨が降りこむ砦を見た。




