第百六十一話
ウェルトミッド草原に冬の風が吹く。
兵士達が慌ただしく戦の準備をする。
私は黒い髪をなびかせ陣中を歩く。
もう誰も私を組み伏せようとしない。
代わりに昔みたいに陰口やひそひそ声が聴こえる様になった。
「すみません。芋と豆ください」
そう麻袋を食糧係の兵隊さんに差し出す。
彼は芋と豆どころか小さな肉の塊まで入れてくれた。
私は黙ってその汚れた袋をもらい踵を返す。
もうこれぐらいのことではジャンは護衛についてくれなくなった。
昔はいつでも一緒だったのに。
テントに入る。
「ジャン食糧もらってきたよ。そう胸に抱えた袋を折りたたみ机に置く」
「……そうか」
彼はまた何やら書き物をしている。
何書いてるんだろ。
まあどうでもいいかと思ってもらった食べ物を確認する。
「今日は早く食べて。早く寝るか」
そう彼は頭を掻きながら言う。
「明日から帝都攻略戦だからな。少しでも体力を残そう」
私も頷く。
ここまで来たんだ絶対生き延びてみせる。
メニョ。もう少しで帰れるよ。
こんなに変わった私を貴女は愛してくれるかな。
もう心が壊れそう。
そして明日からもっと壊れる。
それはもうわかりきってる。
胸に手を添えてできるだけ凄惨な光景や不幸を想像する。
初めから絶望していれば心はそんなに傷つかない。




