第百五十八話
髪が乱れる。口に髪が入ってる。取らなきゃ。
いや違う。そんな場合じゃない。
この状況をなんとかしないと。
矢がゆっくりこっちに向いてくる。
どうする? このまま死ぬのか。
息を吐くと舌まで出てしまう。でもそんなのは関係ない。
考えろ。考えろ。
いろんな人の顔が浮かぶ。
クルスさん。なんで今クルスさんが思い浮かぶんだ。
一番解決方法と関係なさそうだ。
『なあカーシャちゃん』
これが走馬灯ってやつか嫌だ。それに最後に思うのがなんでクルスさんなんだ。嫌だ。
『アミィってさ雷だけじゃなくさ。磁力みたいな力もあんのかなー』
いつか話した。他愛もない会話を思い出してしまう。
止めろ。止まれ。今そんなこと考えてる場合じゃない。
『どおりであいつが俺の心を引き寄せるわけだ』
止めてよ。止めてよ。涙も浮かびそうになってきた。
ボウガンの矢は完全にこっちに向いた。
『一緒に戦ってるとさ』
死んじゃう。
『あいつ。なんか矢すら曲げてる感じがあるんだよね』
はっと息をのんだ。
矢を魔法で防ぐ?
瞳が震える。矢は依然こちらを向いたまま今にも放たれそうだ。
最強の魔法使いの特技。私に真似できるだろうか。
でもやるしかないんだ。
ボウガンの矢をみつめたまま自分のできる限界の集中をする。
鈍色の矢が光っていた。




