第百五十五話
建物に立て籠もる男達が何やら叫んでる。
私たちはその声を聴きながら料理屋を出る。
ゴーディさんが首を鳴らしながら先頭を歩く。
教国の赤い兵士達が建物を囲む様にして既に集まっていた。
「状況は?」
そうゴーディさんが兵士の一人に訊く。
その兵士はゴーディさんを見ると驚いた顔をした。
「ゴ、ゴーディ・ニコルソン!」
その言葉に周りの兵士達もざわめく。
「教会最強の騎士」
「な、なんでここに」
「最強ってのは止せよー。苦手なんだ。その呼び名」
そう彼は煙草をふかしながら兵士の肩に腕を置く。
「で? 状況は?」
兵士は緊張した面持ちで頷く。
彼は簡単に戦況を説明する。
「なるほどー。手前の建物に五十人程、向こうの建物にも十人程か」
それから兵士達を数える。
「で、集まった君らは四、五名か。確かに突入はできないな」
彼等はばつが悪そうにうつむく。
彼は煙草を吸う。
「応援を待ってても良いが。建物に火をつけて逃げてられてしまうのも困るな。それにこの場所だけとも限らんか。この分だと大聖堂や軍部も……」
彼は考える顔をする。
「よし! 手前の建物は俺がやってやる。ジャンお前らは向こうの路地角の建物を鎮圧しろ。できれば捕縛が望ましいが非常事態だ。贅沢はいわん。自分の身を最優先に行動しろ」
私は瞬きをする。計算間違ったかな。
「だって五倍近く違いますよ。ゴーディさん大丈夫ですか?」
でもあの強さだ。いけるのか。
「君たちは市民を守ってやってくれ」
そうゴーディさんは兵士達に声をかける。
「行くぞカーシャ」
聞き違いかと思った。
「どうした行かないのか? いつだか炎を出せる様になったって自慢してなかったか。流石に一人で十人斬るのは俺もきつい。敵を焼き殺せなくてもはったりぐらいにはなるだろ? 来い」
彼は外套をひるがえし背を向ける。
「お前が必要だ」
その言葉に笑みがこぼれてしまう。
頼りにされた。
そんなの人生で片手で数えるくらいしかない。
目を細めて喜んでると、彼が歩き出したので私も慌てて追いかける。
息が乱れる。でも嬉しさの気持ちでも胸が高鳴った気がした。




