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第十六話
雨が振りこめる晩だった。
黒塗りの貴賓室の扉を叩く。
「カーシャ・ヴァレンタイン入ります」
向こうから声が聞えた。それから真鍮のドアノブを回す。
赤い絨毯の上に長机がある。
そこに見知らぬ男が二人座っていた。
魔法使いではないなと思った。
身体が全然華奢じゃない。むしろ頑強だ。
それに良く見ると白髭を蓄えてる方は軍服を着ていた。
扉の前に先生が立っている。
「カーシャ君。遅くにすまなかったね。まあかけて」
そう一番入口に近い席を示した。
座りながら状況を把握しようと辺りをきょろきょろと見てしまう。
もう一人の灰色のマントを着た男は存外若かった。
腕組みをして無愛想な顔をしている。
「カーシャ君。今日はね……」
先生が優しい口調で説明しようとした。するとかぶせるように白髭の老人が大きな声を出す。
「単刀直入に言おう魔法使い」
彼は鋭い眼で私を見る。
「おまえにはイヴォークとの戦争に参加してもらうことになる」
そう白い髭の男はもう決まったことの様に言った。
窓を叩く雨が強まった気がした。