第百四十七話
帝国との決戦はウェルトミッドか。
言ってもあの草原も広いんだけど。
帝都寄りのって意味だろうな。
そう宿屋で顔を洗いながら考える。
それはつまり一番最初の決戦があった場所。
三割も壊滅させられた苦い思い出の地。
かつて私の運命を変えた戦いがあった場所に私も行くんだ。
「今度は負けないぞ」
そう布で顔を拭きながら鏡を見る。
「なぜなら今回は私がいるから」
ふふふと鏡の前で笑っていたらジャンに不気味がられた。
しかし心の底から竜と出くわさない様にとも思った。
草原の主戦場は三つある。
つまり竜が来る確率も三分の一。
神様どうか私の所にだけは竜を寄越さないでください。
そう都合の良い時だけ神に祈った。
「お前何やってるんだ?」
そう手を合わせる私を見てジャンが呆れた様に言う。
でもヴァルディングスと私は心が通じる仲だしひょっとしたら私を殺さないんじゃないか。
「……しかし、どうして三百年も経ったのにあの竜もわざわざ戻ってきたんだか」
そうジャンは枕に頭を預けながら言った。
「そうだよねー。どうして……」
私は彼の方を向く。
「初代皇帝の時と同じ竜なの?」
「そうだよ。知らなかったのか」
そういえば五百年近く生きてるって言ってたな。
ありえない話じゃないか。
初代皇帝が存命中に離れたって言ってたな。
理由がわかんないだっけ?
私はしばらく考えたあと真顔になりそっとジャンのベッドに座る。
「ど、どうした急に?」
彼は緊張した声を出す。なんだか落ち着かない様子だ。
「……ジャン。私ね悩みがあるの。それをジャンに聞いて欲しい」
伏し目がちの瞳で呟いた。
小さなため息も吐く。彼の手の傍に私の手も添える。
彼は何故か唾を飲む。
「……私ね」
「ああ」
「最近、謎が多すぎてさー。もう何がなんだかわかんないよ。私ってそんなに頭良くないからさ。そろそろ一つぐらい解決してよ。ジャン頭良いからわかるでしょ」
そう私が一気に言うと彼は冷たい眼をする。
「……明日も早い。寝ろよ」
彼は吐き捨てる様に言う。何だか不機嫌そうだった。




