第十五話
神父はすぐ艶やかな笑顔に戻った。そういう訓練でもしているんだろうか。
「『ザハノーバの奇跡』ですね」
彼がそう言うとメニョが興奮気味に喋り出す。
「教皇が暴徒に襲われた大司教の命を救ったんですよね?」
彼女は眼を輝かせる。
「聖都の衆人環視の中ナイフで刺された悲劇の大司教」
メニョは周りに口を挟ませない勢いで話し続ける。
「心の臓を貫かれて誰もが命を落としたと思った……」
彼女の話し方は妙に芝居がかっていた。
「ところが教皇が天に聖杖を高く上げると!」
神父は咳払いをした。
「息を吹き返したんですよね」
そう神父が最後を簡単に纏める。
メニョは口を細めて残念そうな顔をしていた。
私はその説明を聞いて少し驚いた。
生唾話かと思っていたがそんなにも目撃者がいた中での出来事だったとは。
「その暴徒はどうなったんですか?」
教会の仕込みの可能性もあると思って聞いてみた。
そうだとしたら犯人は理由をつけて名前を明かされなかったり民衆が知らぬ間に釈放されるなんてこともありえる。
「可哀想に広場で断頭処刑されましたよ。最後まで口汚く神の名を冒涜していました」
そう神父は残念そうに溜め息を吐いた。