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第百三十七話

彼の胸に頬を寄せる。

血で顔が汚れたのがわかった。

心臓の音が聴こえる。


「……生きてるよ」

彼は簡単に一番聞きたかった言葉を言う。

「革手を外してくれないか」


私は言われるまま血で強張った革手袋を外す。

外した瞬間手を掴まれた。少し驚いてしまった。

暖かい手だ。


彼はそのまま何も言わなかった。

黙って私の手を握っている。

それがどういう意味かはわからなかった。


だけどそのままにさせてあげようと思った。

それで彼が癒されるなら。


「うぷっ妬けちゃうなあ」

そうルシエさんが口元に手を添えながら笑う。

「こんな状況でも……。愛は芽生えるんだねー?」


私は顔を赤くして慌てて手を振る。


暫くしたらジャンは起き上がり状況を確認しはじめた。

諜報員一人一人の様子を見ていく。

最後に暑苦しく叫んでた少年の所で止まった。


「大丈夫か?」

「……です」

最初の言葉はもう全然聞こえなかった。


「大活躍だったな。凄い剣捌きだった。お前がいなかったら俺達は死んでたよ。何人斬った?」

ジャンは彼の手に自分の手を添える。


この人強かったんだ。そうさっき広間にいた彼を思い出す。

彼は虚な眼で記憶を探す様な顔をした。

「二、三十、そっから先は覚えてません。無我夢中でした」


彼は頷く。

「さすが十四にして教会の諜報員に選ばれるだけある。凄まじい戦いぶりだった」

そう彼は頭を撫でる。


彼は虚ろな眼のまま言う。

「俺この国が好きなんです。この国で幸せに暮らす人が好きです。それにさっき広間で心を通わせる二人を見て……。こういう人達のために剣を振るわなきゃって思いました」


彼は頭を掻きながら笑う。

「俺、役に立ちましたか?」

その眼には涙が溢れた。


ジャンは彼の手を握って強く頷く。

「ああ。若いお前が頑張る姿は俺達を勇気づけたよ。さっきも言ったがお前の剣の腕がなければ確実に俺達は死んでた」


「ははっ」

そう彼は血を噴きながら笑う。

「彼女が俺を行かせてくれたからですよ」


「……命令違反は勇気がいるなあ」

「帳消にしてやるから安心しろ。活躍もありのまま報告しといてやる」

「嬉しいなあ。聖都に戻ったら女の子達にもてもてですかね?」


「ああ。こんなに頑張ったお前を女達が放っておくわけないだろ」

「……やっぱり隊長は優しいなあ。命を懸けたかいがあった」

すると彼は静かになった。


「兵士さん!」

そう私が彼の肩を揺さぶる。

「安心しろ。眠ってるだけだ。……こんな若い奴を殺して目上の人間がのうのうと生きるような戦い方を俺は好まない」


彼らしくない発言だと思った。

感傷的な言葉。

案の定彼は私に背を向けて肩を震わせている。


いつかみたいに本当に彼が生きてて良かったと思ってるんだ。


ごめんねジャン。

貴方の夢や目標を否定するようだけど貴方に黒騎士は似合わないよ。

こんなに人のために涙を流せるんだもん。


優しさを捨てないのも立派な強さだよ。

そう誰かが泣くのを見て泣く瞳で思った。

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