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第百三十一話

血の小川が城の廊下から流れてくる。

久しぶりに見たな。

慣れた私もどうかしてると思う。


彼もいくらか血塗れになっていた。

もう四、五人斬り殺してるんじゃないだろうか。

敵の数は百人から二百人程度だって話だ。


まさか独りで全員斬り殺すわけじゃあるまい。

下からちらっと彼の顔を見る。

息を乱してる。


やっぱり人一人殺すのって大変なんだ。

他の諜報員がどれだけいるのかわからないけど。

廊下の角からそっと奥を確認する。


私の見た限り七、八人しかいなかったぞ。

人殺しの専門家達ってわけか。

そう考えると身震いしてきた。


彼に寄り添いながら歩いてるとこの前の広間に着いた。

赤い絨毯が広っている。死体の血だ。

何体あるんだろ。軽く二十体ぐらいあるな。


下手したら一緒に来た人達はジャンより強いんじゃないか。

そんな考えすら浮かんできた。


静かになった広間を見る。

中央の絨毯に濃い紫色の染みが残っている。

ルシエさんが戦った跡。


「……ルシエさん」


「灰騎士殿!」

そう静かな空間に声が響く。

「何だ」


「領主を訓練場へ追い込みました。しかし敵の数が多く……」

「わかったすぐ行く。乱戦になってるのか?」

「はっ!」


彼は唇に指を添え考える。

「他の状況はどうなっている?」

「城内はほぼ鎮圧したと思われます。組織だった抵抗は見られません」


「……早いな」

「領主ケインが訓練場に兵力を集中させておりますゆえ」

「なるほどな。即座にこちらが少数だと見抜いたか。兵を固められるとやりづらいな」


「グランド将軍に増援を要請しますか?」

「いや。それには及ばん既に充分すぎる戦力を頂いている。我らで何とかしよう」

彼は首を横に振る。


功を焦ってる感じがした。

そんなに黒騎士になりたいの。命を懸けてまでなるものなの?

彼は私に向き直る。


それから私の腹に手を添えた。

顔が赤くなる。

「痛むか?」


痛かったけど恥ずかしさの方が上だったから首を横に振った。

「……お前はここで待ってろ」

「何で?」


「死ぬ可能性が高いからだ」

「だったら尚更……」

「お前の魔法は威力が強すぎる。それにきっとお前を連れてっても守れる余裕が無い」


彼は私の頭を撫でる。

それから小さく笑う。

「本当にお前は俺の気持ちをかきまわすな」


彼は私の頬に手を添える。

「妹以外であんなに感情を出したのははじめてだ」

なんか嫌だ。死ぬ前みたいじゃないか。こんな時に優しくしないでよ。


「すまないが彼女を護衛してやってくれ」

「はっ!」


「止めなよ。馬鹿みたいだよ。黒騎士なんかならなくていいよ。生きていこうよ」


震える唇で言う。

「おいおいまだ死ぬと決まったわけじゃないぞ。可能性があるだけだ。……だからお前の心の中に残る最後の俺が嫌な思い出であって欲しくなかった」


彼は私を強く抱く。

「戦ってくるよ」

そう耳元で囁かれた。


「止めてよ。帰ってきたら恥ずかしくなるよ」

私が震えた声でいうと彼は笑う。

「それはそれで良いさ」


彼は私を突き放すと外套をひるがえした。

ついていきたいけど邪魔なんだ。どうしたらいいの?

手で瞼を擦ると彼の背中がどんどんと見えなくなっていく。


また役に立てなかった。

何度も悔しい思いをしたのに。

なんで今私は変われてないんだ。


そう思うと蹴られた腹なんかよりずっと胸が痛んだ。

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