第百二十七話
「何考えてるの?」
そう私は城の近くの森でジャンに訊く。
彼は腕組みをしながら木を背にして白い息を吐く。
「明日ルシエさん殺されちゃうんだよ」
「静かにしろ」
彼は誰かを待っているのか辺りを見まわす。
夜の森に静寂が広がる。
「……この城は今晩『運悪く』盗賊に襲われる」
私は意味がわからなくて首を傾げてしまった。
「折角褒美の面会権を使ってまで領主と接触したというのに教会につく気はないようだからな。できれば穏便にすませたかったが……」
「この城の人間は今晩俺達が皆殺しにする」
「俺達?」
彼は頷く。
「単独で諜報活動をしてるとでも思ってたのか? 他の諜報員と協力してだ。これからその連中と合流する。……城に火の手が上がった後、『偶然』近くに駐留していたグランド将軍の軍勢が、『偶然』火の手を発見し、領主を救出するために城になだれこむ。惨殺された死体だけが残った城にな」
「なるほどね。だから私達ってわけか?」
はっと息を吐いて皮肉気に笑う。
「謎が解けたよ。最初はね。裏切り者かどうかわからない魔法使いに危険な潜入工作をさせてるんだと思ってた。使い捨てぐらいの気持ちでね。敵国の知識もあるしね。まあ妥当だと思ってたよ」
私はつづける。
「だけどね貴重な灰騎士までそんな危険な任務につかせるのがね。どうも腑に落ちなかったんだ。私達しっかり『戦力』として期待されてたってわけだ。その素敵なお城皆殺し作戦の一員としてね。冗談じゃない。私は降りる。そんなのは手の汚れた教会の人間で勝手にやってくれ」
私がそう吐き捨ててその場を離れようとすると剣閃が飛んだ。
後ろ髪が少し散った。
「……脅しは止めなよ。ジャンに私が殺せるの?」
そう剣を抜いた彼に言った。
もちろん実力的な意味では無い。その心の優しさでという意味だ。
夜の闇に彼の眼が鋭く光っている。耳には夜の森の静寂さだけが残った。




