第百二十五話
毒の泡が弾けた。
紫の泡の中で彼女は怒りの表情を見せる。
ルシエさんを囲む集団がざわめく。
領主が顎で兵士達に攻撃しろと促した。
彼らは唾を飲んで切りかかる。
ぱちんと泡が弾けた。
その飛沫が兵士達にかかる。
広間に響く悲鳴。
眉間に皺を寄せる彼女。
「毒ってじわじわ死んでく印象でしょ?」
泡が弾けまた飛沫がとぶ。
その滴が付着した地点から嫌な煙があがる。
「ほぼ即死だから安心して」
できるわけないと味方の私ですら心の中でつっこみを入れてしまう。
はじめて特殊系の人の戦闘を見る。学長はまた別な能力だったからな。
「死体も綺麗なもんだよ……」
氷の魔法使いと違って彼女は戦いのさなか笑ったりしなかった。
人の命を救ってきた魔法使いなんだ。戦うのが嫌に決まってる。
それにどんなに傷ついたといってもリリィ・スペイセク程ではないんだろう。
まだ理性を保ってる。
それでも私達が使ってる魔法式を知らないはずなのにこの戦闘力は凄まじい。
これが特殊系の魔法使いか。
彼女の足元では紫色の水が沸き立ってる。
きっとまだこんなのも序の口なんだろう。
余力を残してる感じがした。
「……予想以上だな」
領主が指を鳴らした。
先程まで晩餐会を楽しんでた臣下達が武器を取り出す。
ボウガンの数が多かった。
「私は特別な力は持っていない。平均並みの人間だ。だが、」
彼は指で頭を叩く。
「準備力だけは抜かりない。地味だがこれが最強の力だと私は信じてる」
そう彼が笑うのと一緒に鈍色のボウガンの群れが彼女を囲んだ。




