第百二十三話
紫の閃光が地面を切り裂いた。赤い絨毯も真っ二つになる。
臣下達がざわめく。
「騒ぐな!」
そう領主が毅然とした態度で言う。
「魔法使いが魔力を使う時このような前兆があるときく」
そう彼はルシエさんを睨む。
私だこの野郎と思って前に進もうとしたがジャンに止められる。
「まだ動くな」
そう耳元で囁かれた。
当のルシエさんといえば座り込んだまま動かなくなっていた。
「ふんふふふーん。どうしてこんなことをされたか知りたいか魔法使い?」
彼は彼女の周りを鼻歌をしながら歩く。
「まぁお前にはわからんだろうなあ。流れ者から一代で領主になった人間の気持ちが?」
悩んだ様に彼は掌を額に置く。
「へへ。底辺から成り上がるのは大変だったよ。本当になんでもした。したくないことも、追従笑いも、嫌いな人間とも仲良くしたさ。腹の中で反吐を吐きながらな!」
彼は本当に唾を吐いた。それが彼女の艶やかな紫の髪につく。
それでも彼女は何の反応もしなかった。
「頭を地面に擦りつけながらそいつの頭を地面に足で擦りつけることばかり考えてた。そしてそれが実際に出来た時……。もうっ最高の気分さ! 復讐は何も生み出さない? うそうそ。最高の快感だよ。昔の自分を越えるほど嬉しいことは無いからな」
彼は歪んだ顔でつづける。
「復讐が駄目なんていうやつに限ってね。復讐される様なことをしてるやつなんだよ! だってそうだろ? 復讐される様なことをしていなければそれを肯定したって良いんだからさ。復讐を悪にしちゃえば偉い奴はさ一方的に……」
彼は慌てた様に口を手で押さえた。
「わしとしたことが興奮してしまった。若い頃の気持ちで話しちゃったよ。お前を殺す理由だったな。ちゃーんとあるからちゃーんと聞け」
そう彼が歪んだ笑みを浮かべると髭も一緒に動いた。




