第百二十話
「駄目です!」
口を開いた後で二人の冷たい視線。
また空気の読めないことをしてしまった。
でもこのもやもやした気持ちをどうにかしたい。
「人の言葉に流されないでください」
何言ってんだ私。唾を飲む。
「あなたが本当にしたいことをしてください!」
二人の冷めた眼が続く。そりゃそうだ根拠を言ってないんだから。
ただの自分を良く見せるための言葉だ。
正義を語って悦にひたって。
何にもしない。
本当に優しさを求めてる人にしたら一番嫌な人間だろう。
みんなが愛や正義を語ってる。
だったら世界中に愛が溢れてるはず。
そんなに一杯あるんだったら。
そんなにたくさんあるんだったら。
どうして私にだけそれが届かないんだろう。
どうして私だけこんなに傷つけられるんだろう。
そんなことを汚れた布団の中で泣きながら考えてたんだ。
だから私はちゃんと理由を口になしなきゃ。正しい言葉を口にしなきゃ。
私は口先だけの人間とは違うんだ。
身体が震えてきた。
なのになんで?
私も同じ人間になっちゃうの。
なんで言葉を組立てられないんだ。
間違ってることはわかるのに。
自分の気持ちを伝えられない。
思ってることを伝えられない。
「……だ、だって一度しかない人生だから、後悔しちゃいますよ」
なんで? そう頭の中で弱い言葉を責められる。
「……それに人の心の弱さにつけこんで誰かの人生を操るなんて絶対間違ってます」
またしゃっくりが出てきた。
「自分を我慢することは素晴らしいことです。だけどそれは希望を持った我慢であって欲しいんです。ただ絶望に耐えて我慢するだけの人生なんてあんまりじゃないですか。私ルシエさんが望まないことを騙す様な形でさせたくないんです」
彼女は黙って私を見つめている。
何言ってんだ私。独りで興奮して。
紫の髪の魔法使いは何か考える様にして宙をみつめた。




