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第百十六話
「なんかすごい簡単な話じゃない?」
そう毛皮のマントで首を隠しながら白い息を吐く。
「そうか?」
吹雪の中だとお互い声を大きくしないと届かない。
「仕官の条件が噂の魔法使い連れてくれば良いだけなんでしょ?」
「人の気持ちを動かすのは難しいぞ」
知った様な口きいて。
馬が嘶く。鼻水がすぐ凍りそう。
「もう何度も領主から登用の使者を送ってるそうだからな!」
「へー。気難しい子なんだね」
「らしいな」
彼の顔が少しだけ見える。眉も睫毛も白くして御爺さんみたいだ。
「そもそもなんでさ! こんな諜報活動してるの?」
雪原でだれもいないから良いかなと思って聞いてみた。
「正面から帝都を攻撃する前に背後をつく攻略の拠点をつくっておきたいのさ!」
彼が答えるあたり本当に周りには誰もいないんだ。
「ん? どういうこと!?」
ざっくりしすぎてわかんない。
「帝国を滅ぼす日が近いってことだ」
そう彼は吹雪の中で叫んだ。




