第百九話
「お前あの爺さんになんて言ったんだ?」
暫くしてジャンが本を脇に抱えてやってくる。
「なんか泣きながらあの子を幸せにしてやってくださいって頼まれたぞ」
私はそうなんだと頷き本をめくる。
彼は独りであの様子には驚いたなとぶつぶつ言っていた。
黴の生えた革の背表紙。結構古い本なのか?
そう私は自分がもっている本をいろんな角度から眺めた。
「……それにしても」
彼は私を馬鹿にした様な眼で見る。
「お前十八にもなってその本の選択の仕方は無いだろ」
そう山積みになった絵本の山を見る。
「なっ。これはめずらしかったから! だって教国にはこんなの全然無かったし」
私は頬を熱くして否定する。
そうだ教国はこんなに本が無かった。魔法都市ソルセルリーにも。
「まあ製本技術は西から伝わったからな。そんな本を作る余裕もあったんだろう」
そういうジャンはどうなんだよ。
御自慢の本のご趣味を見せてもらおうと思った。
鉱石や地質学? 地質学って何だ? 字は読めるけど初めて聞いた学問だ。
他にも歴史書や地図。それに詩。
こいつ絶対自分が頭良さそうに見える本集めてきたな。
どうせ難しくて読めないくせに。
「それにしてもジャンが詩なんてね」
私は馬鹿にされたお返しだと言わんばかりにじとっとした眼で笑う。
なぜか彼の身体がびくっと反応した。
「ん?」
ひょっとして書いてたりするのかな。彼は恥ずかしそうな顔をしている。
なんだか可哀想になったから口をすぼめて先程の革の絵本に眼を戻す。
『しろとくろのまほうつかい』
そう革の表紙に焼印で題名が打ってあった。
私はゆっくりと古い紙をめくりその絵本を読みはじめた。




