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第百一話

「何の真似だ魔法使い?」

そう黒騎士が私の方を向く。

やった少なくともジャンから視線を外させたぞ。


もう逃げて良いんだよジャン。

男の人だけが頑張らなくったって良いんだよ。

今度は私が守ってあげる。


私は彼にここから離れる様に目配せした。

それでも彼はその場から離れない。


伸ばした震える腕をもう一つの手で抑える。

「わ、私、結構強いですよ。爆発しますよ」

なんだこの脅し文句。もっと強そうに振る舞わなきゃ。


「報告は聞いてるよ。威力だけなら最高の魔法使いの一人なんだってな」

そう彼は後ろのジャンにも注意を向けながら話す。

そうだったのか。知らなかった。


「でも速度はどうかな? 俺が魔力を蓄積した腕を切り離す方が早いと思うぞ。『雷神』と違って速さは無いんだろ?」

私は唾を飲む。


「私の身体に損傷があった瞬間に蓄積された魔力が放出される様、魔法式を書き換えました。言ってみれば私自身が魔法爆弾みたいなもんですね。どうします? 私と心中しますか? 最強の黒騎士を地獄の道連れにできるなら本望ですよ」


私は魔力を蓄積しながら笑う。

夜の広場に紫の閃光が飛び交う。

もうこの痛みにも慣れてきた。


気づかないでくれ私の嘘に。


彼の訝しげな視線に私は瞳が震えない様に努力する。

唇も噛む。震えるな。震えるな。

黒騎士は暫く無言で私を見つめていた。


「何故そこまでする?」

彼は本当にわからないと言った様子で頭を掻く。

「他人だろ」


ここで嘘を言うと他の嘘までばれてしまう気がする。

本当を話そうと思った。

そっちの方が意外と簡単なんだ。


「……私はずっと心を傷つけられる人生を送ってきました。魔法使いだったからです。優しくしてくれる人もいました。でもそれが余計につらい時もあって、いっそのこと心が完全に壊れれば良いのにと思う日も何度ありました。ずっと孤独を感じてました」


彼は黙って話を聞いている。

「だから初めて男の人に守ってもらえて優しくしてもらえて」

震えるな私。


「嬉しかったんです」

それでも涙が止まらなかった。


「馬鹿みたいだって思うかもしれませんが、みんなには当たり前のことなのかもしれませんが、私にはとても難しいことでした。一生経験できないと思っていた幸せを彼からもらいました」


私は掌を黒騎士に向けたままえづく。

「私は言葉を信用していません。愛とか優しさなんて誰にでも言えるからです。だからこの愛を感謝の気持ちを行動で示したいんです。彼のためならこの命を捧げても惜しくないんです。初めて私を守ってくれた人を」


私はしゃっくり混じりの声で続ける。

「私も守りたいんです」

もう涙で顔がぐしゃぐしゃになってたかもしれない。


黒騎士は神妙な顔で頷く。

「……嘘じゃなさそうだな。いや、そんな顔で嘘をつける人間なんていないか」


私も頷く。

彼は剣を降ろす。

「もう十分だろ。俺はこれ以上若者の繊細な心を傷つけたくない」


そう黒騎士は誰に言ったのか剣を降ろす。

ジャンの顔も私の顔も驚きに満ちた表情になる。

ゴーディさんは微笑む。


「良く頑張ったお前ら。本当に良く頑張った」

そう彼も泣きそうな顔で笑う。

「お前らの心の美しさは本物だよ」


そう黒騎士が一番安心した様な大きな溜め息を吐いた。

魔力を消して眼を瞑るともうこの場に倒れてしまいそうだった。

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