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STAGE 1 「侵入」第二部

 数十発の銃声音を後方から耳にした時、重火器とは異なった種類を武装し、一種のボディスーツを身にまとった若い男、ギルは咄嗟に後ろを取られたと勘違いをした。

 心臓の鼓動が幾分早さを増し、目の前を横切る砂塵の形一つ一つがヒトの影を連想させる。現れては消え、また形を築いたと思えば瞬く間に景色の溶け込む不規則な繰り返しが、ギルの緊張感を大きくさせた。

 後方に回れるほどのプロ級の腕を持つハンターが自分達に挑戦しに来たと思い込み、前方にいるゼラに退却の合図を送る為、右耳に装着してあるマイク付きの通信機の送信スイッチを指で切り替える。

 砂が空気中を荒々しく横切る音と共に、ゼラの「クソッタレが!!」の罵声が轟く。イヤホンの意味が無くなる様な大音量で聞いた為か、一瞬言うのを止めようかなと思ったが、相手が「受信モード」になった事が分かり、わざと慌てる様な素振りでマイクのほうへ口を近づけた。

「やばいゼラ。 今度の奴、相当の腕を持ってやがる」

「は? 動揺しすぎだろ」

 ギルが期待した半面、反応が薄い。

 更に粘りを見せようと引っ張ってみせる。

「だが、考えても見ろよ。 開始からたった4分で後方ケツの二人殺られた感じじゃねぇか」

「そりゃ仕方ねぇ事だな。 あいつらに運が無かったって事だけだろ」

 ―は?

 マイクから聞こえるゼラの返答に、今度はギルが呆気に取られた。

 何という事だろう。ゼラは今回の事を軽く見ているのか、それとも何か余裕のある理由があるのかはギル自身知らないが、やけに冷静というか、無謀なほどに近かった。

 そのまま放って置いてもいいのだが、今の状態で相棒パートナーとなっている以上、そのまま見殺しも出来ないし、仮にそうだとしても胸糞悪い。

 無理にでも下がらせる為に少し強気に言ってみた。

「冗談じゃない。 運が良いとか悪いとか、そんな阿呆な事抜かしている状況じゃないんだ。 俺達が後ろにいたらああなっていたかも知れないんだぞ!!」

「阿呆?」

 マイク越しで彼の形相が変わったのが目で見えずとも直感的に分かってしまう。下手に同じような生活を続けていたら、相手の感情の変化にすぐ気づいてしまうからだ。

 だから、自分の性格を普段から表に出さないように気を付けているギルから見れば、思考ただ漏れのゼラは、扱いやすい相手としてうってつけという人物に成り立つ。

 だが、パートナーである以上、利用するだけでは何かしらの心に引っかかる思いがあった。それが良心である事に、ギルはまだ気づいていない。

 会話は途切れることなく、ギルは反発した。

「ああ、そうだ。 阿呆な考えでつっぱっしって貰っちゃ、こっちの命が幾つあっても足りやしない」

「ギル・・・・、お前ェ」

 見えない所から銃口を向けられた感じがするのは気のせいなのか。実際そうでは無い虚の感覚にギルは、手に負えなくなった野獣ゼラを出来るだけ穏やかになだめようと口調を気づかれぬよう、替えた。

「いや、すまない。 頭にくるのはわかるが、とにかく今はとても危険である事を少しは察してくれ」

 次の瞬間マイクから聞こえてくるのは、ゼラの怒鳴り声だと確信していた。しかし、数十秒近く砂の流れる音とゼラの荒い息遣い以外何も耳に入ってこなかった。

 ―まさか、やられた?!

 急遽考えもしなかったシナリオが脳裏に浮かぶ。このまま目標も捕らえられず、全員返り討ちされる始末。一人も死なせないように深く案を出した作戦は、1対8の圧倒的多勢のこちらが破られる最悪なケースへと移り初めた。

「おいゼラ。 おい、聞いてんのか?!」

 内心焦りながら、あくまでも相手に悟られるぬよう最低限聞こえる声で喋り、応答を待つギル。もし彼が倒れているすぐ隣に敵でもいたら、このままこちらの状況は筒抜けになる。一人だけギリギリの賭けをしているギルは、妙な興奮感の中、聞き飽きた声を聞くハメとなった。

「ああ、気に喰わねぇ!! そもそも今の状況を判断するのは俺の立場じゃなねぇのかよ!!」

 あんなに心配した自分が馬鹿みたいに思う反面、彼が生きていたことに何故か腹がたった自分が恥ずかしかった。とにかく、声が聞けたのは何よりの証拠になる。ギルは彼が言った言葉を冷静受け止め、すぐさま理解した。

 

 

 

 確かにゼラの言う通りだった。二人一組の行動に制限された場合、判断の早い前衛(もしくは、実戦経験の長いほう)が各組での頭脳となる。ギルとゼラの組み合わせの場合、実戦の経験が多い事と尚且つ、前衛以外の配置を一度も請け負った事のないゼラがこのチームで、仮のリーダーとなる。

 ゼラの機嫌が悪いのはさっきから自分へのギルの言葉が一々耳で聞きたくない事ばかりだったからだ。

 まるで自分のほうがゼラに対して酷い事を言った様になっていた所が気に喰わないのだが、今はそういう状況でない事は十分分かっていたので何も言わなかった。

 ―そもそもそっちが違反しているじゃないか。押し込めるように詰めた言葉を肺に無理やり戻し、腰の低い立場キャラを演じる。

「お前の言いたい事も分かる。 だが、今回だけは今まで通りの理屈じゃ通じない相手だ。 そこを分かってくれよ」

「大体、何を根拠にそんな事言ってんだ? いつもこうだろうが・・・、よっ!!」

 吐き捨てるようにギルに向かって答えながら、質問返しをするゼラ。その合間にも何を狙ったのか知らないがマイク越しから彼の愛用のベビーライフルが火を吹いた音がする。 薬莢入れから空の薬莢を飛ばしながら、ゼラは更に銃声のした方向に進み続ける。

「あ、おい!! 勝手にポイントから離れるな。 味方の場所を見失っちまうぞ」

 ゼラの位置を知らせる反自動追尾機能トレーサーの点滅光源が、腕に装着されている粒子出力装置「クーペ」の立体映像を通して確認できた。

 赤く表示された光源は、見る見るうちにギルのいる場所から遠ざかっている。対象物からの時間的な数値によって、ゼラが走っていることが分かった。

 そもそも最初からこれを見ておけば相棒ゼラの生死などを明白にする事ができるのだが、何故今まで使用しなかったのかはギル自身、よく分かっていない。

 只一つ言える事は、粒子出力装置クーペを造った仲間がたった今死んだ中に入っていたこと。シノと呼ばれた、小柄の少年が目標の最初の手にかかったことだけは確実なものであることだ。

 ―ゼラは知っているのだろうか?

 いいや、もはや過ぎた時間だ。失った者の形や表現など、当に現せる者自体消えてしまうのだから・・・・。

 心の中で何時も、整理された言葉が浮かび上がる。目の前に広がる砂塵が一つ二つの命さえもまるで何事も無かったように消し去ってしまうのだろうか?

 アレから体中で規則正しく鳴響く鼓動が、急に苦しくなるような感覚に襲われた。自分もまたここで朽ち果て、消えるようにしてこの砂の大地に肉体を風化させるのか?

 抗えない恐怖は不意に広がり、この身を無常にも苦痛の茨に縛り付け、決して離そうとしない。

 目を瞑った。

 大きな深呼吸をして、体に溜まった無駄な気持ちを拭い払う。もう決めたことに迷いは無かった。瞼を素早く開き、あたりの景色を一掃する。今まで見たあの人影も、纏わり付く恐怖も湧き上がらない。完全に無心状態に入った。

 武器を持ち直し、きちんと稼動するか念入りに確かめる。初めて実戦に使用する試作型の銃器。この地域にそぐわないためか、吸い込まれそうな未知の金属で造られた白金の銃身に、自分の顔が写っているのが分かった。これがシノにとっての最後の製作品となったことにギルは、皮肉にも口元を緩ませざる得なかった。

 両手にしっかり持ち、ギルは全力でゼラの元に走った。辺りで鳴響く銃声には一片の感情も込められていない。淡々といばらに追い込む、羊飼いの犬の遠吠えに聞こえた。

 


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