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決闘、終結

 

「「勝つのは俺・私だあぁぁぁ!!」」


 互いの叫びが交錯する戦場で、銃弾と魔法が暴れ回る。

 銃撃手が連続で放つ銃弾は魔法剣士の周囲に展開する発動直前の魔法陣を次々に貫き、消滅させた。だが、全てを破壊しつくす前にかろうじて破壊をまぬがれた魔法陣が鋭利な氷の槍を生成し始める。


「避けられるものなら避けてみろ!」


 撃ち抜かれた魔法陣が消滅し硝子(ガラス)が砕けるような音が響くなか、魔法剣士の無慈悲な宣告とともに氷槍が銃撃手に向けて射出される。


「避けねぇよ!」


 そう叫び、銃を振り上げたシリウスは銃把を両手で握りしめ、飛来した氷槍に銃身を思いきり叩きつけた。半ばから折れた氷の槍が、光を反射する欠片を撒き散らしながら地面に突き刺さる。


「隙ありだ!」


 銃口の向きが逸れたその瞬間、アスクは再びシリウスの目前に迫っていた。

 彼女としては魔法をくらえばよし、あるいは避けられても体勢が崩れた隙に相手に斬り掛かるつもりだったが、眼鏡の銃撃手はあろうことか銃を鈍器として扱って防御することを選択した。そんなことをすれば銃身がひん曲がって射撃に影響が出そうなものだが、彼は隙を最小限におさえる方を優先したらしい。

 その選択が功を奏し、銃撃手は氷槍を叩き落とした銃を構え直し、その銃身でもって魔法剣士の一撃を防ぐことに成功する。

 だが、それでも接近は許してしまった。


「もう撃たせる暇は与えん! 覚悟しろ!」

「くっ……!」


 至近距離で振るわれる斬撃を銃身で必死に防御し続けるシリウスだったが、徐々に圧され始めていく。何より、剣の間合いでは彼は攻撃を封じられたも同然である。反射弾丸を使おうにもアスクの猛攻の前ではその隙すら見いだせない。

 たまらず後退しようとするシリウス。だが、アスクの斬撃の苛烈さは両者の間合いをあけることすら許さなかった。無理に距離をあけようとすれば、その瞬間切り捨てられるだろう。


「ならこれだ!」


 追い詰められた銃撃手は、先ほど自分がへし折り地面に刺さったままの氷槍を勢いよく蹴り上げた。折れた氷槍が戦う二人の間を回転しながら、魔法剣士に向かって飛ぶ。

 だが苦し紛れの策を嘲笑うかのように、自分に向かってきた氷槍をアスクは一刀のもとに斬り捨てた。戦いの中に身を置く者特有の、ほぼ無意識、反射的な防御行動である。


 だからこそ、シリウスは彼女がその行動を取ること(・・・・・・・・)を狙っていた。


 氷槍を蹴り上げると同時に、シリウスはバックステップで後ろに下がったのだ。

 果たしてシリウスの目論み通り、彼が後退した瞬間と氷槍が斬り捨てられる瞬間は重なった。いかに凄腕の剣士であろうと、同時に二つのものを斬ることはできない。

 アスクが銃撃手の真の狙いを看破した時には、すでに彼は剣の間合いから抜け出していた。彼が立つ間合い、それは銃の間合いである。


「もらっ――!?」


 しかし、銃口から弾丸が飛び出すことはなかった。

 彼が引き金を引いた瞬間、轟音と共に銃身が弾け飛び、衝撃で銃撃手の身体が吹き飛ばされる。その勢いのまま決闘場の地面を転がり、やがて止まった。

 横たわりピクリとも動かなくなったシリウスを見つめ、アスクが呟く。


「ふん、まさかここまで粘るとは思わなかったぞ。保険をかけていなければ、私も危なかったかもしれん。その点だけは誉めてやろう」


 剣を鞘に納めるアスクに、老店主が走り寄った。


「お前さんいったい何をしたんじゃ? なぜ銃が?」

「大したことはしていない。奴に剣を受け止められる度に、剣に宿した魔法を流し込んでやっただけだ。銃の内部で生成された氷が銃口を塞ぐようにな。もし、奴が銃を撃とうとすれば――ご覧の通り。手こずらせてくれたが、これで私の勝ちだ」


 もはやボロ雑巾のように成り果てたシリウスを一瞥(いちべつ)し、アスクはゆっくりと踵を返して決闘場から立ち去ろうとした。

 その時、


「待てよ……」


 カシャン、という音が決闘場に響く。

 納刀した剣の柄に手を添えつつ魔法剣士が振り返れば、目に映ったのは、暴発の衝撃で壊れた眼鏡を地面に落としつつも、なんとか立ち上がった銃撃手の姿だった。


「さあ、続きを始めようぜ、アスク……まだ……終わりには早すぎる……!」


 満身創痍という言葉の見本のような格好になりつつも、彼の目から闘志は失われていない。いや、むしろ、より闘志に満ち満ちている。


「よさんか、シリウス! もはや勝敗は決しておる、これ以上の戦いは――」

「下がっててくれよ、じいさん……! 俺は、負けられないんだ……!」


 老店主の言葉を遮ったシリウスは、銃身が破裂しすでに残骸としか呼べないような銃を拾い上げ構える。

 ボロボロの状態になってまで彼は戦いを止めようとしない。いったい何が彼をそこまで駆り立てるのだろうか。


「……夢とか、誇りとか、希望とかさ……呼び方は何でもいいけど……人には、決して譲っちゃいけない一線ってのがある……そいつは、心の中で自分を支える柱だ……もし、ここで背を向けて逃げたら……俺の中の柱は曲がっちまって、多分、一生もとには戻らない……」


 強い意思を秘めた銃撃手の目が、魔法剣士を見据える。


「だから、俺は逃げない! 最後の最後まで戦い抜く! 俺の夢のために!!」


 ずいぶんとかっこいいことを言っているが、要は理想の女の子とパーティを組みたいから負けたくないと言っているだけである。


「お前さんが何を言おうと、勝負は決した。見届け人としてこれ以上の決闘は許可できん」

「……そうだな。これ以上、私とお前が戦う意味はないよ」


 ジッ、とシリウスの顔を凝視していたアスクは静かに告げた。同時に、抜刀しかけていた剣から手を離す。


「……私の負けだ」

「……え?」

「お前には勝てない。だから、この決闘は私の負けだよ」

「……ほ、本当か?」

「嘘は言わない。約束通り、お前の仲間になろう」

「は、はは……やった、ぜ……」


 承諾の言葉を受け取って気が抜けたのか、シリウスが崩れ落ちた。地に倒れ伏す寸前、駆け寄ったアスクがその身体を抱き止める。


「……やれやれ、ずいぶんと無茶をする男だよ」


 気を失ったシリウスを抱え、アスクは小さく笑みを浮かべる。その笑顔は、どこか優しい。


「シリウスの虚仮の一念岩をも通すといったところかの。お前さんも、あそこまで嫌っていたのに、まさか自分から負けを認めるとは思わんかったぞ」

「当然だ。あんなものを見せられたら、もう戦う意味はない」


 傷ついた銃撃手の身体に癒しの魔法をかけるアスク。老店主の言葉に答えてはいるものの、その視線はシリウスの顔に注がれたままである。


「まあ、あんなアンデッドじみた真似をする奴とはもう戦えんのも当然かの」


 そう納得する老店主であったが、


「ん? 何の話だ?」


 心底、不思議そうに首を傾げるアスクに何やら違和感を覚える。


「何って、お前さんが決闘を止めた理由じゃよ」

「ふ、そんなもの、こいつを見れば一目瞭然だろう。見ろ、ご老人」


 そう言って彼女は、傷が癒えたシリウスを指差す。



「眼鏡を外したこいつの顔めちゃくちゃ可愛いじゃないか!!」



 老店主は言葉を失った。


「なぜ、私がこいつのことをあんなに嫌っていたのか、ようやく理由が分かったよ、ご老人。見ろ、この可愛い顔を! まるで仔犬のようなあどけないこの顔を! 正直に言って私のドストライクだ! だが、それが眼鏡によって隠されていた! しかもそれが似合っていない! 素材を引き立てるのではなくまるで台無しにするかのような愚かな所業! 最高の芸術品が凡百の一品に成り果てたことによる無意識の拒絶! それが嫌悪感の正体だったのだ! だが気づいた以上もはや戦うことに意味などない! 全ての可愛いものは私の庇護対象! そう! 可愛いは正義なのだから!」


 大真面目にとち狂ったとしか思えないことをのたまう魔法剣士に老店主は、


(…………さて、決闘場の整備をせねばならんの)


 こいつらについて考えるのを止めた。


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