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8.何とかなりました。

 離宮を無事に突破した私達は、王子のもとに向かう。途中で王の手先に見つかることもなく、目的地まで到着した。

「よかった、サクラちゃん。今さっき、王子が馬鹿王に退位をしてもらうために謁見室に入っていったよ」

「王妃様もいないのに行っちゃったの、馬鹿王子」

 アリサちゃんの報告を聞きながら、無謀にもほどがあるぞと呆れてしまう。その後すぐにしまったと気付くものの遅い。

「馬鹿王と馬鹿王子?」

 きょとんとした声で王妃様が私とアリサちゃんを見ている。やってしまった、王妃様から見れば旦那さんと息子さんだったよ、王と王子。でも仕方ないじゃないか、今更敬意を持ってみることはできないんだもん。

ふふふと、なぜか小さく笑う王妃にビビる私。

「やっと――やっとお会い出来ますわね、愛しい愛しい陛下」

 艶やかな笑みを浮かべた王妃様に、私達のいる空気が下がったような気がする。背中に言い知れぬ寒気まで感じたのは初めてだ。

 愛しいと口にしながらも、その瞳には熱に浮かされた色は見えない。むしろ逆の意味を込めて口にしているだろう。

「ここまで連れてきてくれて、本当にありがとう。それから、この世界を救ってくれて本当にありがとうございます、二人とも」

 そう言うと、王妃様が私とアリサちゃんを抱きしめた。温かいその抱擁に、涙が込み上げてきた。労わるその言葉もそうだが、懐かしいような匂いを王妃様から感じた。

「さあ、参りましょうか、勇敢なお姫様達」

 そのまま私とアリサちゃんの手をとると、王妃様が女官長に開けられた扉から中へと入る。


 豪華なイスに座る王を見るのは二回目だが、前回と違い顔を真っ赤にして声を荒げている。

「お前は、親を愚弄するというのか」

「愚弄ではありません。私はこの目で確かめてきた事実です」

 凛とした王子の声が聞こえてきた。そんな声も出せるんだと感心していると、王妃様がいたずらっぽく私達に笑って見せる。

 白熱した王子と王の言葉に、鈴の音を転がしたような甘い声で割り込む。怒声を上げようとした王の顔が一瞬で固まったのを見た。

「まあまあ、お久しぶりですわね、陛下」

「な、まさかお前は王妃か? なぜここにいる」

「理由は深く問わないでほしいですわ。ずっと、ずっとこの日を待ち望んでおりましたもの」

 艶やかな笑みを浮かべている王妃に、なぜか王が怯んでいる姿が不思議だ。諌めようとした王妃を離宮に閉じ込めたのだから、王のほうが立場的には強いはずなのに。

「母上、なのですか?」

 記憶にすら残らないほど小さいころに離された王妃様と王子だが、感動の再会というのには温度差があるようだ。

「あらまあ、やだわ、私そっくりの顔をして」

「お会いしたかったです、母上」

 同時に発した言葉はちぐはぐで、かなり残念な印象。泣き虫な王子に相応しく潤んだ瞳をしている息子に対し、母である王妃の何の感情も伴わない瞳。せっかく見目麗しい二人の感動のシーンなのに、それらしい雰囲気を微塵も感じさせない。

 そんな二人に、王が声を荒げた。

「ええい、そんなことよりもアイザック、お前は何を言ったのかわかっているのか」

「分かっておりますよ。あなたに退位、もしくは譲位をしてほしいと願い出ました」

「この、お前というやつは」

 顔を真っ赤にして怒鳴り散らす王の姿は滑稽だ。冷静に対処しようとしている王子のほうがまし

だと思えるほどに。結局はまだ、どっちもどっちなんだけどね。

「あらまあ、でしたら次に即位される方はどなたかしら?」

「母上ですよ。この国初の女王陛下となり、統治していただきたいと思ってます」

 すでに王妃様には話しがいっているはずなのに、わざと王に聞かせるために口にしたらしい。案の定、王は噴火しそうなほど益々顔を赤くしている。

「そうなのですって」

「お前には聞いておらん、黙っておれ」

「それは無理なことですわ。このお話は私のことですもの。それに、あなたには一人で国をお任せしてしまいましたもの、そろそろ御隠居されるとよろしいですわ」

「指図をするな」

 睨みつけている王の視線を物ともせず、王妃様は今までの思いを思い出すように進言する。

「私は最初から無理だと申し上げました。あなたのその短慮な考え方では、領民はおろか息子ですら幸せにすることはできないと教えて差し上げましたのに。どうして理解する頭をお持ちではありませんの」

 一歩ずつ近づいていく王妃様に、なぜか王がたじろいで見えるのは気のせいだろうか。このまま逃亡するのではないかと危惧して、つい王の足を椅子へと縛り付けておく。動けなくなった足に驚きながらも、王は手を振り回して必死に叫ぶ。

「王妃よ、来るな。来るなと言っている」

「私を閉じ込めておけば安泰だと思われたのでしょうけれど、残念でしたわね。御安心くださいな、あなたの面倒くらい見て差し上げますから」

「いらぬ、お前の面倒など。だから来るな、お前は……」

「愛しておりますわ、陛下。そうですわ、今までの統治がどれほどだったかと嫌というほどお話して差し上げますからね。あなたがどれほど至らない統治者だったか教えて差し上げますわ、陛下」

 愛していると口にするたびに、王の顔が蒼白に変わっていく。それに意味があるのかと問いたくなるくらい、歌うようにその言葉を囁く。

どうして王が王妃に怯えているのか知りたい。理由は聞かないほうがいいのかもしれないけれど、ものすごく気になる。

 手が届く位置で立ち止まるころには、王はぐったりと項垂れていた。どういうことだろう? 王妃様も魔法使いだったりするのかな?

「さて、アイザック」

 王への興味が失われたらしく、くるりと振り返った王妃様が王子を見た。にこやかな笑顔に、王子もつられて笑みを浮かべた。

「色々と思うところがありますが、とりあえずあなた、サクラさんに謝りなさい。いいですか、土下座でですよ、土下座」

 目が据わった状態で王妃様が王子を睨む。鋭くなった視線はいつかの王子を思い出すものの、それが比にならないほど冷たい目だ。それに纏う雰囲気が違う。一気に空気が重くなったような気もする。

 王が座っている位置に立っているので、小柄な王妃様であっても十分王子を威圧している。すごい、これが王族などが持つ、特有のオーラというものだろうか。

「は、はい」

 その雰囲気に気圧されてか直立になったかと思うと、王子が急に私に向かって両膝をついた。

「大変、申し訳ありませんでした」

 そのまま額を地面にこすりつける勢いで頭を下げた。その行動に一番驚いたのは、目の前にいる私だ。

 しかもそれを王妃様は満足されなかったらしく、ダメ出しが入る。

「ただ謝ればいいというのではありません。それに、言われるまでその言葉を口にしなかったのですって? 本当にもう、陛下も皆も、どういう教育をしてきたのです。こんなのが将来、国を統治するかと思うと民が可哀そうです。あなたには再教育を受けてもらい、その後にでも皇太子として相応しいか判断します。もしそれに合格しなければ、王として人の上に立つ資格などありません」

 小国の王女様としてお生まれになったプリシア姫。彼女は聡明であったために父である王から哲学を学んでいた。嫁ぎ先の相手の手助けになるようにと。

 しかし、嫁いだ先の相手はあの馬鹿王で、率直な意見として述べることを王は受け入れようとはしなかった。むしろ邪魔だと判断し、王は王妃様を離宮へと閉じ込めてしまった。

 そんな話をロディから聞いていたけれど、こんな性格だとは思わなかった。

 目の前にはいまだ頭を上げることなく土下座している王子。もういいよと口にしていいのかわからず、私はただ立っているだけしかできない。

 そんな私に王妃様は口元に人差し指を添えた。

 えっと、それはつまり、何も言うなってことですよね? はい、とばっちりは嫌なので、大人しくしてます。たとえものすごく居心地が悪くてもね。

「ねえアイザック、あなただったら許せるかしら。この世界に有無を言わせず連れてこられた女の子達が、もう二度と生まれついた国に戻れないことを知った時、どんなことを思うのかしら。ましてや絶望を感じている相手に、あるまじき暴言を吐いたなんて……あなたのやったことは人として最低なことよ。魔族と大差ありませんよ、あなたの態度は」

「はい、母上。いえ、王妃」

 声が震えているような気がするんだけど、気のせいじゃないよね。それはえっと、つまり反省をしているのかな? それとも王妃様がただ怖くて震えているだけなのかな? その両方だったりする?

「しかも賓客として扱うべき彼女を公開処刑にしようとした馬鹿王と、地下牢に入れる馬鹿王子とは国の恥さらしにもほどがあります。しかも馬鹿王は聖女にも暴言を吐いたと聞きましたよ。そんなあなた達を諌めるべき臣下が一人もいないということはどういうことですか」

 そう言いながら、控えている者たちの顔をゆっくりと目にする王妃様。睨まれれば決まり悪そうに視線を外しているところを見ると、自分達の行いがどういうことなのか理解しているのだろう。

「そうね、ここにいる臣下ではそうなってもおかしくはないのかもしれないわね。ねえ、あなたたち。だったらこう言えば理解出来るかしら。あなた達の罪状はそうね、幼い子供の誘拐・拉致監禁かしら。自分達の都合を押しつけておいて、いざ予定にない人間がいたら処刑ですって? いいですか、あなた達は国の恥を表ざたにしていたのですよ、ずっと。魔王の存在がなければ、もっと早くに隣国に攻め込まれていたでしょうね」

 どうしよう、怖い。笑顔なのに、怒っている顔よりも怖いってどういうこと? しかも、めっちゃ空気重いし。

 目の前には頭を下げ土下座したままの王子、そして正面には笑顔の王妃様。助けを求めて隣を見ると、なぜか頷きながら同じような笑みを浮かべているアリサちゃんまで見えるんですけど。

 臣下の人たちは青ざめて今にも倒れそうだし、王に至っては泡を吹いて気絶しそうだし。改めて自分のしたことを理解した彼らは私の気持ちを理解したのか、それともその恐怖で凍りついているのか謎だ。王妃様の口から聞かなければ一生理解することはなかったのだから、恐怖で凍りついているだけだな。反省は絶対にしない気がする。

 ぶっちゃけ二度と王子達と関わり合わなければ私は別に気にしないんですけどね、と口にしたいけれど、王妃様の笑顔が怖くて言えそうにない。

「サクラさん――あなたがこの国に、いえ、この世界にいい印象を持っていないことは想像がつきます。そうさせてしまったことはこちらに非があります。本当に申し訳ございません」

 王子達に向けていた険悪な雰囲気と冷徹な色をした瞳は消え、王妃様が頭を下げた。

「自分の非を認めることが出来ないような人間になってしまったのは、私達の責任です。これからもう一度教育し直すので、この国を見限ることはしないでほしいのです」

「いや、その」

「この馬鹿親子はしっかりと私が説教をして己のことを反省してもらいます」

「はあ」

「もしよかったらサクラさんもやります?」

「いいえ、そんな、遠慮します」

 これ以上かかわり合いたくないので勘弁して下さい。

 王妃様にも出来たら二度とお会いしたくないのが本音と言いますか、怒らせたらいけない人№1と認定しました。

「あの、そろそろ王子の頭をですね……」

「そのままにしておきましょう。せっかくだから踏んでおきます?」

 いやいや、全力で遠慮します。そんなことしたら馬鹿王と同じになっちゃいますよ。

 そんな私にふわりと笑み頷いて見せた。

「サクラさんの温情に感謝して頭をあげなさい、アイザック」

「はい」

 半泣きになっている王子の顔を見て、見て見ぬふりをするべきか悩む。男がそう簡単に涙を見せるなよ。私だって泣きたい時に我慢したんだから。

「陛下は私へ継承権を譲位してくださるということでよろしいわね」

 王妃が振り返りそう尋ねると反発する気力もなくなったのか、王は項垂れたように頷いた。

「それでよい」

「よろしかったですわ、本当に。長い間、積りに積もった思いを今夜打ち明けさせていただきますから、楽しみにしていてくださいね」

 他の者たちの時間がもったいないから後は寝所で説教をして差し上げます、と王の耳元で囁いた声が聞こえてきたのはたぶん気のせい。

「アイザックは当分の間、自室での謹慎を言い渡します。ロディ、しっかりと見張っておきなさい」

「はい、妃殿下」

「聖女アリサさんは、今後の方針を考えましょう。魔王が倒されたからといって魔族が全滅したわけではありませんもの」

「はい、王妃様」

「サクラさんはどうされますか?」

「私も一緒に聞いてもいいですか?」

「ええ、もちろんですわ。こちらからお願いしようと思っておりましたもの」

 本来の王妃様の笑顔はこっちなんだろうなと思いたい。柔和な笑みは見ているだけで幸せな気分を味わえる。それだけに、先ほどの笑顔は強烈だった。

「陛下とそれに加わった臣下の名前をあげた書類を作らせて、明後日までには持ってくるように手配してくださいね、女官長」

「畏まりました。前任である宰相もそちらに控えさせておりますので、出来次第お持ちいたします」

「悪い膿をしっかりと出した後、凱旋パレードと一緒に新女王の即位式ですね」

 そう告げたのは、女官長さんが言った前宰相さんらしい。私は見たことのない、人の良さそうなお爺さんだ。

「あら、凱旋と即位式は一緒のほうがいいのかしら」

「そのほうがよろしいかと。大々的にやったほうが、民も活気づいてきますし」

「分かりました、それらはすべてあなたに任せます。私が女王になった暁には、またかつてのように宰相としての手腕を期待しておりますよ」

「肝に銘じます」

 まるで阿吽の呼吸のような自然な流れで話す王妃様と前宰相さんを見ながら、やっと終わったんだと実感する。

「サクラちゃん、よかったね」

「うんうん」

「王子に謝ってもらって、よかったね?」

「そうだね。やっぱり、どこかで一度区切りをつけてもらいたかったからね」

 城を出る身としては必要ないかと思ったが、やはりここでのことを区切りとして考えれば貰っておいても損はない。

「アリサちゃんも良かったね」

「え?」

「王妃様が女王様になれば、聖女として動きやすいものね」

「そうね、王子だと頼りなかったから安心できるかな。しっかりと王妃様に再教育されるといいわね。ついでに根性も一緒にたたき直されて、いい男になってもらわないとね」

 今のままでは確実に王と同じ結果を招くだろう。そうならないためにも、王妃様にはしっかりと教育してもらわなくては。

「本当だね。でも、王妃様がいれば安泰だね」

 もう二度と、あの王が統治することはない。貧困が改善されたわけではないが、これ以上腐敗することはないだろう。

これでやっと安心してあの村に行くことが出来ると思うと嬉しくてたまらなかった。


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