表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/20

7.救出作戦とやらですよ。

 そんなわけで、ドミニクさんの瞬間移動を使い、一瞬で城へと戻ってきた私達一行です。昨夜のうちにそのありがたい魔法を教えてもらったので、今後に役立てようと思います。

 無事に魔王を倒し、魔族からの脅威を退いたと報告を受けた王様は喜んでいましたが、アリサちゃんの言葉を思い出すと好きにはなれない。私がチートに似た能力を身に付けたことは王子達の意見もあり伝えることはしない。

 とりあえず私のことを殺す気満々だったと聞いた後では、この王様も碌でもない男だと再認識しておきましょう。


 出発前では与えられなかった豪華な客間に通され、地下牢じゃないんだと思わず呟いてしまった。

 メイド服を着た侍女さん達に「当然です」と声をそろえて言われ、身なりを綺麗にしてもらった。

「命をかけて助けていただいた御恩は一生忘れません」

「本当にありがとうございます」

 そう言って侍女さん達がお礼を言ってくれた。彼女達に会うのは初めてだが、もしも出発前に会っていても、同じようなことを口にしたのだろうかと訝しんでしまうのは仕方のないことだと思う。

 ああ、もう。王子のせいで人を信じられなくなってる。どうしてくれよう、まったく。

 わらわらと侍女さん達に囲まれ始め、連れてこられた場所がお風呂場だと気付く。慌てて一人で入れると叫び、なんとか逃げ切ることが出来たのはアリサちゃんのおかげだ。

 彼女いわく、この世界に召喚されて私と引き離され聖女として客間に通された後、何もしなくていいとばかりに服を脱がされてお風呂で洗われたと聞いていたので、地下牢で閉じ込められていてよかったと本気で思っていた。

 だからこそ、もしも自分がそうなったらと思うと……。実際に身ぐるみはがされてやっと危機を感じたのだが。脱がせ方が尋常じゃなく上手なのは何故なのだろう。

 やや脱力感を感じながら客間ですることなくのんびりとしていた私を訪ねてきたのは、ロディであった。

 旅に出ていた時のラフな格好ではなく、騎士として相応しい白い制服に身を包んだロディは格好いいと思う。この部屋付きになっている侍女さん達も浮足立っているところをみると、きっと人気者なんだろうな。

「おくつろぎのところ失礼いたします」

「急に畏まった言い方されると困るんだけど」

「そうですね」

 口元に笑みを浮かべるロディに、侍女さんたちの溜息が聞こえてきた。

 本当に好かれてるんだね、ロディ。貴族じゃないって言ってたけど、侍女さん達には関係ないのかな?

「お願いがあり参りました」

「お願い?」

「はい。例のあれです」

「ああ、あれね」

「はい。サクラ様のお力をお借りしたくて」

「いいよ。どうしたらいいの?」

 侍女さん達の方を気にするように声のトーンを落としたロディに、内緒話をしたいんだと気付く。

「普通の声で大丈夫だよ、聞こえないようにしたから」

「そんなこともできるのですか?」

「ん~と、出来るみたいだよ。内緒話には最適じゃない?」

実際にロディ達の前で色々アリサちゃんと内緒話をしているのですが、気付いてないみたいだし? にやりと意地の悪い笑みを浮かべてみると、ロディが苦笑した。

 私の力を疑っているわけではないだろうが、実際にそういうのを目の当たりにすると驚くのかな。魔法使いがいるんだから、出来て当然だと思うんだけど。

「サクラ様にお願いをしたいのは、離宮に妃殿下が閉じ込められております。申し訳ないと思うのですが、あの方をお救い下さい」

「離宮?」

「はい。こちらに来ていただけますか?」

 実にスマートに手を差し出される。その手をどうしろと? そんな扱いをされても困るんですけど、と思いながらも右手を差し出してみる。

 慣れた様子でその手を握ると、ロディが窓際へと案内してくれる。

「あちらに見える屋敷が離宮です。こちらの城から通じる廊下があり、中に入るための扉の前に警備の者が三人、そして中には数人の女官たちがおります。女官長は私達の仲間なのですが、後は陛下の息のかかったものですので見つかると厄介です」

「ほうほう」

「出来ますか?」

「やってみないとわからないけど、出来ないことはないんじゃない?」

 どうしたらいいかは分からないけれど、日に日にチートな自分を実感している今、やってやれないことはないんじゃないのかな? と思っている。

 見つかったら瞬間移動で逃げればいいんだし、どうにかなるでしょう。

「ところで、王妃様はいい人なの?」

「はい。妃殿下は陛下の悪事を見抜き、諌めようとされて離宮に押し込められたそうです。その時に王子は妃殿下と引き離されてしまい、大臣たちの手にかかったものに育てられました」

「出来上がりは馬鹿王子、と?」

「そのようなことはありません。王子は、間違った教育方針を受けてしまわれたのです、貴族たちの都合のいい方向へ。哲学はしっかりと取得されましたが、王子は一番大切なものを学んでいません」

「一番大切なもの?」

「他人を思いやる気持ちです」

「確かに、それは……」

 言葉に詰まる。そんな気持ちは王子には「ない」としか言えない言動の数々。あれらはすべて、王たちのせいで築き上げられてしまった?

「でも、それだけのせいとはいえないんじゃない? 二十歳を過ぎたいい大人が他人の責任にするのもどうかと思うけど」

「王子の周囲に群がるものたちは高慢な貴族の息子達ばかりで、彼らの言動は下のものを蔑むものばかりで固められていてもですか?」

「それは」

「確かにそれだけではないと言えます。でも、王子だけが悪いとも言い切れないのが現実です。私が初めて王子と対面した時にそれを知りました。だから王子にはこれから国を担うものとしての自覚を得てほしくて色々なことをしました」

「何をしたの?」

「そうですね、まずは陛下と大臣の方々は統治者として腐っております」

 おお、言い切った! 言いきっちゃったよ、ロディ。実はあなたも腹黒いの?

「ですので水面下で動くことにしました。陛下のお怒りを受け宰相の地位を失った侯爵とともに、妃殿下を離宮に閉じ込めることに反対をした貴族の方々と一緒に、王子の再教育に乗り出しました。最初は乗り気ではありませんでしたが、王子もそこから少しだけ成長はされたのですよ」

 時期は遅かったので実りは少ないのですがね、と終えた。

「でも、じゃあどうしてあんな暴言が出てくるの?」

「幼いころから培ったあの性格が、数年で治せると思いますか? 治せるわけがないですよね、そんなことが。まず最初に王子に必要なことは我慢という忍耐でした。ですが我慢をすればするほど、王子の中でうまく処理することが出来ないと、頭に血が上った状態で思ったことを口にしてしまう」

「それは王となるものがやってはいけないことよね?」

「当然です。ですので、サクラ様が最初にお会いした王子は将来王として国を統一するのに相応しくありませんでしたよ」

「また言い切ったね」

「他の方に漏れることはないのでしょう? ならば、サクラ様には本当のことをお話ししておこうと思います。王子はこの一年ほどの旅で変わられました。良い意味で成長をされたのだと思います。民と直接触れることにより、陛下の統治が国にどのような影響を及ぼしているのか学ぶことが出来ましたので」

「この旅がなければ、この国は崩壊していったかもしれないね」

「そうですね。それとも、腐敗が広がる前に誰かに討たれていたかもしれませんね」

 それは、ロディだったかもしれない?

 問いかけてみたくなるような表情をしていた。騎士に志願したのも、もしかしてそれが目的だったのかな、と。王子に抜擢をされて一緒に行動をするうちに、腐敗しているのはどこなのかわかっていく。だから損害なく国に一番有益なのかを考えて王子を丸めこみ、今があるのかもしれない。あくまでも憶測だけれど。

「王子はどうするの?」

「いろいろと議論した結果、陛下を退位させ、妃殿下を女王として即位させるそうです」

「まあ、女王様」

 違うものを想像しちゃったよ。女王様……王妃様はどんな人なんだろう。

「王子が『今の自分では陛下と同じ過ちを犯す』と言われたのですよ。成長をされて本当によかったです」

「そう、だね。私は王妃様を救いに行って、どうすればいいの?」

「王子のもとにお連れしていただきたいのです」

「王子の部屋に?」

「いいえ。陛下に退位をしてもらいたいと、謁見室でお会いしているはずです」

「それって危なくない?」

「いくら王子でも、危険だと思いますよ。陛下は王子以上に簡単に逆上される方なので。でも、やらなくてはいけないことですから」

「でも、だって、ええ~」

 黒い笑みを浮かべているロディは、やっぱり腹黒い性格なんだと認識する。

「このままでは多くの民が犠牲になるだけです。王子はやっと決意をしたのですから、動くのであれば早いほうがいいでしょう。それに、ちょうどよい機会だから思い知っていただこうと思います。己の所行がいかに相応しくないものだったかを」

「……わかった。私はいつ動けばいいの?」

「明日の午前中までには、救出していただけると助かります」

「ねえ、魔法剣士がいるのに、王妃様を救うことが出来なかったの?」

 疑問に思ったことがあった。魔法があるのだから、簡単にするい出せることはできなかったのか、と。

「何度かお救いしようとしましたが、離宮には魔法を無効にする魔法陣が組んであるらしく無理でした」

「だったら私も無理じゃない?」

「いいえ、サクラ様なら大丈夫です」

「その根拠はどこから来るの?」

 同じ魔法なのだから、もしかしたら私もできないかもしれない。

「あなたがこの世界の方ではありませんから」

「それが理由?」

「この世界には、あなたのような複雑な魔法を使うことが出来る人間はおりませんから」

「つまり、私の力とこの世界の魔法は違うの?」

「同じでいて、違う原理だということらしいです。私も詳しいことは分かりませんが」

「聖女の力も、この世界にはないんだよね」

「そうです。聖職者であっても、浄化の力は使えません。アリサ様に教えていただいても、出来ることはないそうです」

 この世界の人間ではない誰かが扱うことのできる力。他から加えられることによって使えるそれは、この世界の人間では絶対に手にすることはできない。

「つまり、そういうこと」

「そういうことだと思います」

「わかった。明日やってみるよ。でも失敗したら逃げるからね、それはもう鮮やかにね」

「はい。それはもちろんです。サクラ様の命を優先して行動してくださって構いませんよ」

 意地でも失敗なんてしないけどね。今後のことを考えると、今の王よりも王妃様のほうが世界としても平和になれると思うから。


 次の日、ロディに用意された動きやすい格好をして私は離宮へと向かっていた。ロディも一緒に行くと言っていたが、一人のほうが気は楽だしすぐに逃げ出せるからとその申し出を辞退する。

一応、気配を消しながら廊下を歩いているせいか、知り合いの侍女や衛兵に会っても誰にも気づかれることはなかった。それでも離宮に通じる廊下まで来ると、さすがに気配を消していても意味がないことに気づく。人払いをしているのだろう、他に人影がないのだ。

 すでに警護をしている男が気付いて警告をしてくる。

「ここは陛下のお許しのないものは立ち入りを禁じられている区域だ」

 そう言われても、引き返すつもりはない。むしろこのまま突破させてもらいます。他の二人も私に気づき、そして警戒することなく見ている。

「そうですね。でも、私もここに用事があるのですよ」

 にっこりと微笑んでみる。うん、ものすごく馬鹿にされた顔で笑われた。くそ、むかつくな。

「子供が近付いていい場所じゃない。さっさと去れ」

「嫌ですよ~だ」

 小さく呟くと、作った光の球を警護の一人にぶつけてみる。思ったよりも衝撃なく、相手が倒れこむ。

 何が起こったかは理解できなかっただろうが、倒れこむ一人の男を目にして他の二人が殺気を醸し出すと同時に剣を構えた。

「子供相手に物騒なものを持ち出して」

 そう言いながら、他の二人も難なくやっつけてしまう。倒れ込んだ男三人を、用意していた縄でぐるぐる巻きに縛っておく。こうしておけば、目を覚ましてもすぐに動くことはできまい。

 思ったよりも時間を取られてしまったなと、扉を開けて離宮へと足を踏み入れる。

 綺麗に清掃されているのがわかる廊下をひたすら歩いていくと、年配の女性が音もなく現れて頭を下げた。

「サクラ様ですか? 御無事でしたのね、ありがとうございます。女官長をしておりますサビナです」

「よかった、女官長さん。部屋が分からなくてどうしようかと思ったの」

 その割に迷いなくまっすぐ突き進んでいたのは、別に猪年だからではないと思いたい。もう一つついでに、王妃様の顔も分からないんだった。

 綺麗な笑みを浮かべた女官長さんがこちらです、と声をかけてから先を歩く。

「今の時間帯ですと、他の女官たちは城や外へ出払っており、警護が表の扉だけの手薄になっております。ここまで入ることが出来たのなら、妃殿下をお連れすることが出来るかと思います」

「瞬間移動が使えるから、すぐにでも王子のところに連れて行けるよ」

「残念ですが、ここでは魔法が使えません」

 ロディは使えそうなことを言っていたが、実際はどっちなのだろう。試してみるのも手だけれど、出来なかったときに恥ずかしいからやめておく。

「そっか。なら、急がないとね」

 どっちにしろ、まずは王妃様と対面しないとどうしようもない。どんな人なんだろうとワクワクしているのは、あの王子の母親に会うからだろう。

 性格はひん曲がっていようと、あの王子の容姿は非の打ちどころがないのではないかと思っている。濃い金色の髪に、翡翠の瞳は物語では定番の容姿だものね。あの王と似てなかったから、たぶん母親似だと思うし。

 そう、あの王は王様っていうほどの貫禄があるわけでもない、普通の人って感じ。無理に威厳を保とうとして失敗してる感じ。

 さて、どんな人かな、スキップをしたいのを我慢しながら、ルンルン気分で女官長の後姿を追いかける。

「妃殿下、迎えの者が見えました」

 ノックをしたのち、中からの返事を受け扉を開ける女官長さん。

「お待ちしておりました」

 部屋の真ん中で落ち着きなく歩き回っていたらしく、王妃様は私を見るなり駆け寄ってきた。

「私のせいで御迷惑をおかけしました。危ない中をありがとうございます。大変申し訳ありませんが、引き続き宜しくお願いします」

 ぎゅっと手を握りしめてきた王妃様は王子に似ている。王子よりも淡い金髪は波打っており、青空を思い出すような瞳は知的な印象を受ける。女顔だと思っていたけれど、顔のつくりまで似ているとは思っていなかった。女装したら王妃様になれるよ、王子。

「いいですよ、王子のところに行けばいいんですよね」

「――あの子は元気ですか?」

「元気ですよ~、無駄に元気」

「陛下は、いかがですか?」

「王も元気ですよ、駄目駄目ですけど」

「ふふ、面白い方ね」

「そうですか?」

 口元に笑みを浮かべた王妃様は、王子の皮肉めいた笑みとは違い見ている人を魅了する。つられて私も笑顔になっていた。

「お話はそれくらいにされて、参りましょう」

 敵陣の中だと言わんばかりに、周囲を気にして何度も廊下へ視線を向ける女官長さんが、のんびりと会話する私達を見て急かす。この機会を逃せば、一生外に出られないのだという焦りを感じる。

 警戒心を怠らない女官長さんの姿は、もしかしたら何度か逃げれないか画策したのではないかと思った。今も王妃様が囚われの身だったことから逃亡できず、歯がゆい思いをしたのかもしれない。

「大丈夫です、絶対に王子のところまで連れて行きますから」

せっかくのチートな力なのだ、存分に使いまくりましょう。この離宮でもしも力が使えなくとも、ここから出てしまえば使いたい放題なのだから。

意気込む私に王妃様が微笑み、女官長さんはどこからその自信が来るのかと呆れられてしまった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ