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5.最初の印象は大切です。

 その後は力のこともばれてしまったことだし、一緒に戦いに参加するようになった。関係ないからと逃げ続けていても魔族との戦いが伸びるだけだと気付いたのもある。

 アリサちゃんと連携プレイをしていけば、結構簡単に魔族と抗戦することが出来ることに気付いた。わたしがやっつけて、アリサちゃんが浄化をしていけば再生することもなく終わるのだ。

 平和な世界で暮らしていただけに、魔族を殺すことに抵抗がないわけではないけれど、人間の姿とはいえない彼らに、アリサちゃんも同様ゲーム感覚に陥っていたのかもしれない。

 だから、高位の魔族が人間の姿をしている事実を目の当たりにした時、当然のことながら受け入れられなかった私とアリサちゃんは一緒に戸惑ってしまい、戦闘にとにかく支障をきたした。

 魔族が人間と同じ姿をしていることをは、ゲームや小説などと同じだと思う。けれどそれはあくまでも物語として受け入れているのであって、現実問題で考えると違う。

 さすがに私もアリサちゃんも、魔族だとわかっていても人間と変わらぬ容姿に動揺は隠せなかった。

 その隙をついてきた魔族に王子に怪我をさせてしまったのは、私とアリサちゃんの責任だと思っている。

 皆のお見舞いが済んだ頃合いを見計らい、私も一人眠っている王子の部屋へ足を運ぶ。

 眠っていたらすぐに退室しようと思ったのだが、王子はベッドで横になってはおらず、私を招き入れてくれた。

「えっと、王子、大丈夫?」

「平気だ。ダレスに治してもらったからな」

「でも、痛かったよね」

 病気と同じで怪我をすれば痛い。まして、魔族の攻撃を受けてなのだ。

 怪我という怪我をしたことのない私にしてみれば、爆発音とともに倒れた王子の姿は痛々しい。かつて魔族の爪で傷つけられそうになった記憶は、今でもその恐怖で身の竦む思いだ。

 現に、魔族の瘴気に当てられた王子は、ダレスさんの癒しの力で治癒されアリサちゃんにも浄化してもらったものの、どこか顔色が悪い。

 大嫌いな人間であろうと、やっぱり誰かが傷ついている姿を見るのは辛い。だから。

「ごめんね」

 こぼれ落ちた謝罪は、自分が躊躇した責任があると思っていたからだ。

 そこにいる魔族と人間は違うのだと頭で理解していても、気持ちがついていけないのだ。目にしている姿が人間なのだから。そのことについて感傷的になるべきではないとわかっていても、どうしてもその一歩を踏み出せなかった。

 そのせいで王子が傷つけられてしまったのだと思うと申し訳ない気持ちでいっぱいになる。いくら嫌いでも、傷つくことはもちろん死んでなんて欲しくない。

「平気だ。だからそんな顔をするな」

「でも」

「それよりも、お前に怪我がなくてよかった」

「王子……」

 守られるべき立場の人間にそんなことを言われると、どうしていいかわからなくなる。あんなにも不遜な態度で私をけなしていたのに、どういった心境の変化なのだろう。

やっぱり能力を手に入れた私を手懐けるための手管なのだろうな。どことなくチートになっている私を使い勝手いい駒だと認識したのかもしれない。

「次からはちゃんとやるから安心してね」

「無理に戦いに参加しなくてもいい。確かにお前がいると楽に終えることが出来るけれど、それでお前が傷つく姿は見たくない」

 そんなことを言うなんて、大丈夫か。

 熱に浮かされたとはいえ、王子はおかしくなってしまったのか? お前に優しくされると気持ちが悪いんだけど。

「大丈夫だよ。次からは王子も守ってあげるからね。そんな弱気なこと言っちゃ駄目だよ」

 そう言って、王子によしよしと頭を撫でてあげる。

 やっぱり病気とは違っても寝込むと弱気になっちゃうもんね。そんな人間に冷たくするほど、私は嫌な奴ではないから優しくしてあげよう。

 これで少しは私に対する感情も緩和するといいんだけど、それは無理かな?

「寝込むとお前は優しくなるのだな」

「寝込んでいる人に冷たくするほど、私はひん曲がっているように見えるわけ?」

「見える」

「ひどいよ、王子。冗談でもそんなこと言わないで」

 目が最初から笑んでいるのを見て、わざと口にしているのがわかった。軽口が叩けるようになったのなら、少しは元気になってきたのかな。

 死にそうな姿を見ただけに、ちょっとだけ安心をする。

 最初の頃よりは、確かに王子は私に優しくなったかもしれないけれど、やっぱりその根本的なことは変わらないのだなと納得する。

「もう寝なよ、王子。ゆっくり休んでね」

 そう言って退室する。

 でもね、第一印象っていうのは大事なんだよね。それがついて回るんだから。

 王子に優しくされても裏があるのではないかと思ってしまうから、素直に受け取ることが出来ない。

 申し訳ないけれど、馬鹿なことを言っているなと一蹴してしまう。


 そんな心配を口にした私に、アリサちゃんが大いに笑い転げたのは印象的だった。

 最初の印象といえば、アリサちゃんもすごく変わったかもしれない。儚げな印象で戸惑っていたのに、今では誰よりも図太い神経を持っていると思う。

 外見が本当に聖女としてもおかしくない、ストレートな黒髪を肩よりも長くのばしており、こちらの服を着ると深窓のお姫様のような印象を受けた。けれど目の前にいる美少女は、美少女とは思えないほどお腹を抱えて笑っている。

 それと、あまり関わっていなかった魔法剣士のドミニクさんも、美形だとは思うけれど、損な役割な人だと思った。最初の印象は冷たくて毛嫌いをしていたけれど、話してみるとそうでもないことが分かった。なんていうか、長いものには巻かれているタイプ。

 使い方のなっていない私に、魔法に関して色々と教えてもらっているのだけれど、とにかく彼は運が悪い。しかもそれなりに格好いいはずなのに、そんな印象はきれいさっぱり消えてしまうくらい残念な性格だ。アリサちゃんに御執心らしいのだが、このままでは報われることは絶対にないなと思っている。

 賢者のダレスさんも、どちらかといえばおバカなのかな。頭はいいはずなのに、後から気付くことが多々あるので、そそっかしい性格なのかもしれない。落ち着いて行動すればいいのにって何度か思ったけど、わざわざ教えてあげる必要はないよね。どっかで大きな失敗をするといいよ。

 極力近づかないようにしていたせいで気付かなかったが、話してみると彼らは私を見下しているというよりは、視界に入っていないだけだと分かった。

 つまり、アリサちゃんだけしか視界に入れてないということ。

 恋愛感情として見ているのかなと思ったんだけど、彼らはアリサちゃんと言うよりは聖女様命、のような感覚で、彼女のことを見ているようで見ていないことにも気づいてしまった。

 だからアリサちゃんは彼らを軽くあしらっているのかと理解した。嫌だよね、自分ではなく聖女を崇拝する人達に付きまとわれるのは。


「ねえロディ、ロディは婚約者とかいるの?」

 つい二人きりになり、そんなことを聞いてしまった。それから最近気付いたのだが、いつのまにかロディのことは呼び捨てにしていた。

「私に婚約者はいませんよ。実は王子付きの護衛騎士と呼ばれていますが、貴族ではないのです。たまたまあった模擬試験を王子がご覧になり、その後まさかの大抜擢をされました」

「ふ~ん、そうだったんだあ」

「王子は私を高く買ってくださっていますが、この前のような件もあるのでこのまま騎士として役に立てているのか不安です」

 王子を守ることが出来なかったことを思い出しているのがわかった。

 この人でも役に立てているのか悩むことがあるんだ。そう思うと親近感がわく。

「誰よりも王子の役に立ってるでしょう、羨ましいくらいに」

「そうでしょうか。私はサクラ様が羨ましいですよ」

「私?」

「はい。あの王子に好かれておりますから」

「あれって好かれてるっていうの?」

 どちらかといえばけなされて嫌われているように見えるんだけど。

 いやいや、最初のころを思い出してほしいんだけど、私のこと必要ないって言ってたし、死んでもかまわないようなこと言ってたよね。

 ロディってばそこの辺り、覚えてますか? ああ、自分のことじゃないから忘れてるのね、うん。そうだよね、ははは。

「私は王子に嫌われてるとしか思えないんだけど」

「そんなことありませんよ。王子の愛情表現は複雑ですから」

「友達として好かれてなくもないかなぁって思えなくもない、かなあ? でも、もしそうだったら迷惑なんだけど」

「迷惑ですか?」

「迷惑に決まってるよ。出来たら何があろうと関わり合いたくない相手だもの」

 それだけは伝えておかねばと宣言しておく。

 反対にロディは神妙な顔で「王子には言わないでくださいね、泣いてしまいます」なんて言ってくる。

「あの王子が泣くわけないじゃない」

「泣かれますよ。サクラ様にそんなことを言われたら」

「おかしいの。私のことなんて気にしてない王子が、私の言葉で傷つくわけないよ。変なロディ」

 くすくすと笑いだす私に、ロディは頭を抱えている。

 本気でそう思っているだけに、私はロディの言葉がおかしくて仕方なかった。

 初対面であの人をも殺せるんじゃないかという視線を向けてきた王子は、私のことを見るのも嫌だと語っていた。

 そのあとも対面するたびに嫌がらせをしてくるのだ、嫌われていると思っても仕方ない。到底、好かれているとは思えない。好かれても困るんだけどね。

「ね、ロディはアリサちゃんのこと、どう思う?」

「アリサ様のことですか。そうですね、尊い存在でしょうか」

「意味がわからないんだけど」

「王子と同じで、手の届かない存在と認識してますよ」

 私の言いたいことが分かっているのだろう、先に牽制をされたようだ。

「じゃあ、私は?」

「サクラ様もですよ」

「私も尊い存在? 柄じゃないかな」

「では、サクラ様は私の大切な御友人、と言ったほうがよろしいですか?」

「それは素敵な言葉ね。私もロディのこと大切な友人だと思ってる。ううん、恩人ね」

「恩人ですか?」

「そうよ。私を生かしてくれたのは、ロディとアリサちゃんだもの。二人がいなかったら、今の私はなかったのよ。だから、ロディとアリサちゃんは大切な友人でもあり、恩人なの」

「ありがたいお言葉ですが、間違ってますよ」

「間違ってる?」

「はい。そのお言葉は、私ではなく他の誰かのことですから」

「他の誰か……?」

 どういう意味だろうと訊ねようとして、ロディに話を変えられた。

「ですが、王子に知られたら殺されそうなお言葉が含まれてましたね」

「どれが?」

「お友達というお言葉です。サクラ様にとって私とアリサ様は、同じだけ大切な存在ということですよね?」

「そうよ」

「アリサ様は女性なので免れておりますが、私はそうではありませんので」

「意味がよく分からないんだけど」

「その言葉のままですが、サクラ様は理解されたくないということですね。まあ、あれだけのことをした王子の態度では受け入れることもできませんよね」

 さっぱりロディの言いたいことが分からず、首を傾げる私に、彼は小さく笑むだけで。

「さて、そろそろ王子に怒られそうなので、行きましょうか」

 顔を上げると王子がこちらを睨んでいるのが分かった。

どうして怒ってるんだろうと思うだけで、深く考えることはない。きっと私の知らないところで王子が勝手に怒っているだけなんだと思うから。

 私にとっての王子はそれくらいの認識しかない。

 今までは部屋や馬車にこもってばかりいたけれど、力の講義を受けるためにドミニクさんやダレスさんとも話をするようになった。ロディとはずっと話をしていたけれど、部屋の中にいた時が多かったので王子がどういう顔をしているかなんて考えたことはない。

「なんだか面倒くさいな」

 好きな時にロディと好きなだけ話をしていると、王子が怒るというわけだ。つまり、自分付きの護衛騎士を独り占めするなという王子からの無言の訴えというわけだ。男同士ということもあって気恥かしいからか素直に口にできないからああして遠巻きに見ている、そう結論付けてしまうと、納得できた。

 子供だな、王子ってば。大事な護衛騎士をとられたくないってわけね。

「なんだか、ものすごい斜め上の見解をしていそうで怖いですね」

 まだ隣にいたロディに、小さくため息をつかれてしまった。

 ん? 斜め上の見解って、なんだ?

 けれどそれにこたえる気はないのか、ロディは先に王子のもとへ戻っていった。

 あ、蹴られてる。暴君だよね、王子って。でもなんか嬉しそうなんだけど、ロディってマゾの気があるのかしら?

 なんて、ちょっと心配になってしまう。

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