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9.私は私の場所を探します。

「凱旋パレードをやることになりました。サクラ様も御参加されませんか?」

 そう切り出したロディに、私はその言葉を理解できなかった。

 あれから数日がたっていた。アリサちゃんや王妃様とのお茶の時間などが楽しくて、ついつい城に長居をしていた。なにしろ王子が謹慎を喰らっているので、静かな時間を過ごすことが出来ているせいかもしれない。

「出発前にもやったっていうパレード?」

「そうですよ」

 華々しく聖女を見世物にしたというあれか。

 この間王妃様と前宰相が話をしていたし、旅の間でもアリサちゃんから聞いていたので、盛大にやるのだろうなと思ってはいた。何しろあの魔王を倒したのだ、きっと民衆の人に「もう大丈夫だよ」という安心感を与えるためにもやるとも思っていた。

 しかし、それに私が参加する必要性はないはずだ。

「じゃあ、その日に王妃様が女王陛下に即位されるんだ」

「そうです。ようやく、民衆があの陛下からの呪縛から解き放たれるときが来ました」

「縛り首にされるよ、そんなことばかり言ってると」

「サクラ様にしかいいませんので、聞き流してください」

「仕方ないな、ロディに免じて許してあげましょう」

 そう言って笑いあう。今ではロディとは仲の良い男友達のような関係だ。

 けれど、すぐに真顔を作る。

「私は出ませんよ」

 悩むことなく不参加を表明する私に、ロディが怯む。

「ですが」

「反対に聞くけど、私が出る必要性ってなに?」

 下手に顔が広まるのは避けたいじゃないか。これから田舎に隠居生活をするとはいえ、やっぱり顔は隠しておきたい。

 今後、悪いことをする予定はないのだけれどね。

 それに、何が悲しくて民衆に手を振らなくてはならない。私は一度、公開処刑をされそうになったんだぞ。絶対に拒否だね。

 そんな私に構うことのない冷たい一言が割り込んだ。

「必要性ならある」

 いつの間にか私の部屋なのに王子が勝手に入ってきていた。

「謹慎中でしょ、王子。何やってるの」

「抜け出してきた。絶対にお前、出ないというと思ったから」

 分かっていらっしゃることで。なら、放っておいてくれ。

「まあいいや、後で王妃様にこってり絞られてちょうだい。それで、どういう意味?」

「うっ、見つからないように戻るまでだ」

もうきっと見つかっているんじゃないかな、王妃様には有能な魔法使いである女官長さんがいらっしゃるから。

 そんなことに気づきもしない王子は、一つ咳払いをして話を戻す。

「人間の恐怖の対象であった魔王を倒したという凱旋パレードも大切だが、それだけではないからだ。そのパレードはお前のお披露目も兼ねているらしい」

「何それ、もっと必要ないじゃん」

「聖女の御友人という立場を確固たるものにするには必要だ」

 別に確固たるものにしなくても私は困らない。会いたい時にアリサちゃんには会いに行けるし、呼ぶことだってきっとできるだろう。城の人間にはもう私という異世界人という存在は記憶に残っているだろうから、危険視されることもない。

「別に私、これからずっと城で暮らすわけじゃないから必要ないと思うけど」

「どういうことだ?」

「私がこの世界にアリサちゃんと召喚された後、私はあなた達にお願いをしたこと覚えてる? 私がもしも魔王を倒す旅から戻ることが出来たら、自由にしてくれるって」

 その時のことを王子が覚えているか不安だったが、どうやら思い出してくれたようだ。

「確かにそういう約束だったな。だが、お前には行くあてなどないだろう」

 そう決めつけて言われると腹が立つなあ。

 あの旅のおかげであては出来ているけれど、それを素直に教える気はない。

「あてはないけれど、ここにはいたくないって思ったんだもん」

「なぜだ?」

「なぜって、その理由を王子に教えないと分からない?」

 この辺りをしっかり王妃様に教育され直して来い。ロディはすでに察してこっちを見ていないぞ。

「分からないな」

「だったら教えてあげる。ここに私の居場所はないからよ」

「前はそうだったかもしれないが、今はあるだろう」

「今だってないよ。私がここにいる理由を教えてあげる。アリサちゃんの友人として一緒にここに戻ってきたよ。王妃様とも仲良くさせてもらってるし、これからのことを話したかったしね。でもね、もうそろそろ私も自由になってもいい頃合いだと思うんだけど」

 難しい顔をして王子が私を見ている。

 よしよし、私の決意が固いことを理解しているな。

「王妃がお許しになられない」

「名ばかりの陛下になっちゃったけど、あの人が署名した書類を私は頂いているけど?」

 その書類を王子に渡したらどうなるか想像がつくので、あえてこの場に出すつもりはない。

「確かにそのような書類をお前に渡した覚えもあるが……」

「私は城で暮らしたくない。ここにいたくないの。だから、私は出ていく」

 何があろうと絶対に。そんな思いを込めて王子の目を見ている。

 口を開くもののすぐに閉じてしまう王子は、どうにかして私を城に留めておこうと思っているだろうけど、決意が固いのがわかって言葉を選んでいるみたいだ。

「私が頼んだとしても駄目か?」

「勿論、王子に頼まれても出ていく決意は変わらない」

 そんな本心のこもっていない言葉で私が出ていかないと思ったのだろうか。鼻で笑ってしまう。

「この城の中にいる人の中で唯一私を引き止めることが出来る人間は二人だけ。でもそのロディとアリサちゃんが頼んだとしても、私は城で住むことはあり得ない。だって私はこの国に召喚されてからのことを忘れることはできないから。だから居場所はあの旅の中で見つけ、その場所に私は行くと決めていた」

 すでに王妃様にはその旨を伝えておいた。それについて王妃様から強く反対をされなかったのは、きっと王子や王の言葉で傷ついたことを聞いていたからだ。

 でもアリサちゃんがこの城に住んでいるから、いつでも遊びに来てほしいと言ってくれた。それに比べてこの王子は。

「行くと決めていたとしても、お前は一人でここを出ていけないだろう」

「何を言ってるの、行けるよ。王妃様だって了承してくれたもの」

「母上が?」

「そうだよ。でもね、大丈夫。王子に反対されてもすぐに出ていけれるんだよ。だって教えてもらったもの」

「教えてもらったとは、何を」

 不穏な空気が流れる。

 困ったようにロディが私と王子の顔を交互に見ているが、気にしないことにする。だって今の私はロディに頼まれても城から出ていくことは決定事項だから、むしろ話さないでもらったほうが助かる。

「瞬間移動だよ。便利だよね、これ。行ったことのある場所にしか行けないのが難点だけど、今のところ行きたい場所はあそこだけだから困ることはないし」

 瞬間移動という言葉に、王子が激しく反応した。魔法剣士であるドミニクさんに教えてもらっていたのは知っているはずなので、私が本気で城から出ていくと分かったのだろう。

 初めて見る王子の焦った顔は見応えがある。私って嫌な性格をしていたんだな。

「駄目だ、許さぬ」

「許すも許さないも、王子の許可なんて私には必要ないの。第一、私のことを処分するようなここで、私は生きていくことなんてできない」

 瞠目する王子に、私は追い打ちをかける。そのあたりは王妃様に深く謝罪してもらっているので、思い出さなければそんなに辛くはない。

「王子だって最初に私に向かって言ったじゃない。『必要ないだろう。お前の命など』って。ここに私はいらないって王子は確かに言ったんだから、そろそろ解放してくれてもいいと私は思うの」

 その時のことを王子も覚えているからだろう、次第に怒りの形相に変わっていく。

 言ったのは私ではなく王子だ。今は違うのかもしれないけれど、あの時の言葉はもう取り消せない。

 あの時に受けた私の悲しみや苦しみが癒えないように。

 だから、ごめんね。王子がどんな言葉で引きとめようと、私は行くよ。

「サクラ、あの時のことは」

「何も言わないで」

 力いっぱい声を出して、きっと睨む。何を言われようと、私の決心は固いのだ。それに一度謝罪は受けたので、それ以上は必要ない。

「今の俺はお前を手放したくない、ずっと傍にいてほしいと言っても、お前は出ていくのか」

「私の力が必要なら、呼んでくれれば来るよ。でも、今は必要ないでしょう」」

「そういう意味じゃない」

「それ以外の意味なんてないじゃない。とにかく、私はここにいたくないの。アリサちゃんに挨拶したら出ていくから」

 王子が意外にも本気で引き留めているのがわかったけれど、それがどうした。私にひどい言葉を投げつけた王子が私の中で消えることはない。

「許さぬ」

「許してもらわなくて結構よ。王子には最初から嫌われているから痛くもかゆくもないし」

「嫌ってなどない」

「あっそ。でも私は嫌いだから」

「嫌いなのか?」

「何言ってるの、馬鹿なの? 王子のことなんか、嫌いに決まってるじゃん」

 それが当然だと言ってやると、なぜかうなだれる王子。

 知ってると思ったんだけど、実は気づいていなかったとは驚きだ。しっかり態度に含ませていたつもりなんだけど。

「それでも、俺はお前を手放したくない」

「迷惑だから、それ」

 王子が「私」という一人称から「俺」になる時、感情が高ぶっている時だと旅の間で知っている。

 結構感情的になっていることが多いから、皇太子殿下と呼ばれる立場としてどうなのかと心配になる。

「呼んでくれれば、すぐに駆けつけてあげるから。じゃ、またね」

 ドミニクさんから習った瞬間移動でアリサちゃんの部屋に移動する。叫ぶ王子の声が聞こえたけれど、無視だ無視。

 いきなり現れた私に、ベッドの端に座っていたアリサちゃんが驚く。寝転がっていないところがアリサちゃんらしい。

「どうしたの、サクラちゃん」

「いきなりごめんね、アリサちゃん」

 すでに瞬間移動を取得していたことを知っているアリサちゃんは驚いたもののすぐに順応して受け入れてくれた。

「旅の間に話していたよね、私がここを出ていくって」

「ええ。城には居場所がないから、あの村に住むっていう話?」

「よかった、覚えててくれたんだ」

「忘れるわけないよ。それがどうしたの?」

「少し予定が早まったんだけど、もう行くことにしたよ」

 一応予定では、女王陛下の即位式が終わるまでと思っていたが、そんな悠長なことは言ってられない。あんなにも煩い訪問が毎日続いたら病気になっちゃうよ。

「王子に何か言われたのね」

「分かる?」

「凱旋パレードのことかしら?」

「そう。それに私も出ろっていうから、煩くて」

「パレードに出たくないのね」

「興味はあるから、民衆と一緒に皆を見てみようとは思っていたんだけど、自分がそこに出るのはちょっとね。顔が広まるのは得策ではないし」

「それもそうね。田舎でのんびりと暮らすのだし、あまりここで顔を出したくはないよね」

 くすくすと笑うアリサちゃんの横顔に、ふと一度訪ねてみたかった。

「アリサちゃんは、ここにいたい?」

 ずっと聞いてみたかった。聖女として無理やり連れてこられ、旅を強要したこの世界をどう思っているのか。

 もしも万が一、ここに居場所がないのなら一緒に逃げ出してもいいと思えるほど、私はアリサちゃんを大切に思っている。

「私は、ここでやりたいことがあるの」

「やりたいこと?」

「サクラちゃんが痩せこけた畑に根付くことのできる野菜を改良している間、私はここで聖女として出来ることをやりたいの。たとえば、魔族の瘴気に当たった人を浄化したり、その土地に赴いてみたり。これって、私にしかできないことよね?」

「そうだね」

「出来ることをやりたい。サクラちゃんに次に会ったとき恥じることのないように」

「アリサちゃんが恥じることなんて何一つないと思うけど」

「そうかしら。でも、私は私のできることを、サクラちゃんはサクラちゃんのやりたいことをやる。これって、素敵なことだと思うの」

「そうだね。でも、そっか残念」

 首を傾げているアリサちゃんに囁く。

「ここにいたくなかったら連れ出してしまおうと思ったのに」

「ふふ、嬉しい御誘いだったよ。ありがとう」

「じゃあ、そろそろ行くね。王子が来たみたいだから」

「ん。気をつけてね」

「また遊びに来るね」

 最後の別れではないので、お互いに軽く手をあげる程度だ。

そこに、ノック後すぐに扉が開く。礼儀の欠いたその仕草に笑ってしまう。

「サクラ!」

 必死の形相をしている王子につい笑ってしまう。そんなにならなくても、王子の気持ちは少しは理解しているよ。謝ってくれた言葉に気持ちがこもっているかいないくらいは分かるんだから。

「じゃあね、王子。お元気で」

 にっこりと笑んで、今度こそエミールの住むあの村に瞬間移動してしまう。痕跡を綺麗に消して。

 この頃には、私は自分がチートな設定になっているのだと気付いていた。ゲームとかにある、なんでもできるチート。そんな存在なんていないと思ったけれど、現実問題、今の私がそれに近い状態にある。なんてありがたい設定なのだと受け入れているけれどね。

 私が消えた後、アリサちゃんが王子にどこに言ったのか詰め寄って、知らないわと嘘をついているのを承知で微笑んだことを、後日ロディから聞いた。

 実はアリサちゃんだけでなく、腹心の部下であるロディが私の行き先を知っているのだけれど、これは内緒。ロディが悪態をついているのを秘密にする代わりに、私の秘密を打ち明けたのだから。

 もっとも、偶然にも王子がエミールの住む村にやってきて、私と再会をするんだけどね。

 今はまだ、そんなことになるなんて、私は知らない。


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