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初デートのはずなのに

待ちに待った土曜日。

駅前に普通に立っているだけなのに視線を集めてしまうのは、やっぱり美人が隣にいるせいだろう。

今日のゆかちゃんは黒いスキニーにシャツワンピ姿だ。

腰に巻いた細いベルトが妙に色っぽい。

それに比べてわたしはAラインワンピでなんだかとても子供ぽい。

一番お気に入りなのを着てきたんだけどなあ。

ゆかちゃんはかわいいかわいいわたしとデートしましょうとはしゃいでいたけど、どちらが魅力的なんてたくさんの視線に聞かなくてもわかる。

兄といい幼馴染といい親友といい、どうしてわたしの周りには濃い人たちが多いのだろう。


ドキドキする心臓を沈めながら、もし時間にルーズな奴だったら即行破局させてやるわ、と不機嫌なゆかちゃんをなだめながら先輩を待っていると、ぴったりな時間に現れたのは、湯浅先輩ひとりきりだった。


「ごめん!あいつ急に風邪ひいたとかで行けなくなっちゃって!」


両手を合わせて申し訳無さそうにする先輩にとんでもないと慌てる。

だって、風邪なら仕方ないもの。

ね、とゆかちゃんに同意を求めようとすると、静かに怒っていた。

そして、深い溜息。


「そう、それじゃあわたしは帰ります」

「え、ゆかちゃん!?」

「今日はデートなんでしょう。先輩のご友人がいらっしゃらないのなら、わたしがいる意味はありません」

「そんなこと言わないで三人で出掛けようよ」

「そうだよ、ゆかちゃん!」


お願いだから急にふたりきりにしないでという思いを込めて、ゆかちゃんの袖を握れば、困ったように眉根を寄せられて、折れてくれた。

彼女はわたしにうんと甘い。

帰らないでくれて良かった。

最初から先輩と二人ってわかってたら心の準備も出来るけど、突然は緊張しちゃうもん。


「駒子、今日、卓巳先輩、駅前のCDショップにいるらしいわよ」

「急にどうしたの?」

「ひとりごと」


何の脈絡もなく、ふしぎなことを言い出した親友は、こうなってしまうことがわかっていたのだろうか。


三人で遊ぼうかということになってから三十分も経たないうちに、どんくさいわたしは、ゆかちゃんからも先輩からもはぐれてしまっていた。

繁華街の駅前って人が多いからなあと呆然と思う。

ダブルデートのはずだったのに、精いっぱいおしゃれしてきたつもりだったのに、なんだか全部台無しになてしまった。

二人をさがさなくちゃと思うけれど、今日はどこかに行こうと決めて遊びに来たわけじゃないので、どこをさがせばいいのか見当もつかない。

ゆかちゃんと先輩。

もしかして二人は、一緒にいたりするんだろうか。

嫌な考えが頭をもたげそうになって、慌ててそれを追いやる。

やさしい親友にやさしい先輩、そんなわけない。


途方に暮れてメールや電話をしてみたけど、返信はないし繋がらない。

このまま帰るのもやだなあ、と行きかう人を眺めていて、ふとゆかちゃんの言葉を思い出した。


さっちゃんが、CDショップにいるって。


ぼうっと呆けていても何ぶん手持無沙汰なので、少しの逡巡の後、駅前のCDショップに足を向けた。



「…本当にいた」

「ああ、こまちゃん」


こちらに背を向けて視聴スペースでヘッドホンをつけていたはずなのに、さっちゃんはわたしに気付いて振り返る。

極上の笑顔付きのそれに、周囲の女の子から黄色い声が上がった気がした。

さっちゃんはすぐにヘッドホンを元の位置に戻すと、入り口で立ちすくんでいるわたしのところにやってくる。


「今日もかわいいね。おめかししてどうしたの?」

「…えっと、先輩とゆかちゃんと遊びに来たんだけど、はぐれちゃったんだ」

「ん?西園寺さんと湯浅の野郎なら、さっき見かけたよ」

「え?ど、どこで!?」


微妙に引っかかる言い方をされた気がするがそれどころじゃない。

詰め寄ればさっちゃんはまあまあとわたしを宥め、それから目を細めて提案してきた。


「スパイごっこしない?」


この人、一体何を考えているのだろう。


スパイごっこ。

それは幼い頃さっちゃんとよくした遊びのひとつだ。

スパイといってもやることは主に、うちの兄を尾行したり観察したりするだけだったが、ばれないように二人してこそこそ兄をつけ回すのは楽しかった。

いま思えばたけ兄もりょう兄も、最初からわたしとさっちゃんがやっていたことのに気付いていたのではと思う。

けれどやさしい人たちだから、子供の遊びにおおらかに付き合ってくれていたのだろう。

それを、さっちゃんはやろうと言うのだ。


「こっそり西園寺さんにメールしてさ、湯浅がこまちゃんのどこを好きか聞いてもらうんだよ」

「ええっ!?」

「とても本人には聞けないでしょ?」

「う、うん、それはそうだけど…」

「いま喫茶店にいるはずだからさ、携帯もそろそろ繋がるんじゃないかな」

「う、うん」


言われるままわたしは頷いた。

含むような言い方が気になる。


さっちゃんは何を知っているの。

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