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先輩と夢みたいな登校

「おはよう」

「お、おはようございます」


まさか、こんな日が本当に来るなんて。


朝からずっと好きだった先輩と並んで登校出来る、幸せすぎて目眩がした。

兄たちの目が厳しいから、家まで迎えに来てもらうことは出来ないけれど、遠くから見てることしか出来なかった人と、彼氏彼女の間柄で歩いているなんて。

ふわふわした気持ちで足を動かしていると、駒子、と名前を呼ばれた。

振り向けば凜とした美少女が口を少し尖らせてこちらを見ていた。


「ゆかちゃん、おはよう」

「おはよう。…また、教室でね」


いつもならその後に一緒に行こうと続く言葉が、今日は拗ねたようにそう綴られた。

気を利かせてくれたのだろう。

先輩と付き合うことを快く思っていないゆかちゃんは、黒い髪を揺らしてすたすたと学校への道を早足に擦り抜けて行く。

なんだかんだ反対しながら、親友はわたしの想いを大事にしてくれる。

そんな気遣いに照れていると、先輩がへぇ、と笑った。


「穂波さんって西園寺さんと仲良いって噂、本当だったんだね」

「え?はい、一番の仲良しなんですよ!」

「そうなんだ、いいね」


笑い掛けられてきゅんと胸が騒ぐ。

ほら、ゆかちゃんは先輩がわたしを泣かすとか言ってたけど、先輩はとってもやさしいじゃない。

みんなが振り返るような彼女と、地味で平凡極まりもないわたしは、心ない人によく釣り合わないと言われてしまう。

けれど先輩は当たり前みたいに微笑んでくれた。

この人を好きになれてうれしい。

心躍らせていると、先輩がこちらを見てにこっと笑った。


「穂波さん、もし良かったら次の土曜日一緒に出掛けない?」

「え…」


これはもしかしてデートのお誘いなんだろうか。

戸惑っていると、だめかな、と言われてわたしはぶんぶんと首を横に振った。

だめな、わけない。


「そっか、よかった。あのさ、二人だと緊張するから、俺の友達も呼んでいいかな」

「え、あ、はい」

「穂波さんも、西園寺さん呼んでくれない?実は俺の友達が彼女狙いで、あ、西園寺さんって彼氏とかいないよね?」

「彼氏、はいませんが…」

「そっか。よろしくね!」


それから学校へ着くまでの話題は、ゆかちゃんのことばかりで。

けれど、友達に聞いてくれって頼まれたんだよと言われると無碍にもできなくて。

親友のプライバシーは守りながら、答えられることは、応えた。


ほんの少しだけ胸がざわざわした。


先輩と下駄箱で別れて、教室に行くとわたしの席にゆかちゃんが足と腕を組んで座っていた。

不機嫌な顔も美しい。


「二人で登校楽しかった?」

「う、うん」

「わたしと先輩とどっちが楽しい?」


焼き餅まるだしなそれに噴き出せば、真っ赤な顔でなによと怒られるけど、全然怖くない。

彼女のこういうところが、かわいくて大好きだ。


「先輩とはまだ緊張しちゃうから、ゆかちゃんかな」

「当然ね!」


また噴き出し掛けて、わたしは土曜日のお誘いを思い出す。

ゆかちゃんに提案すれば、彼女はさっと表情を消した。


「…駒子は、いいの?」

「え?」

「わたしが駒子と先輩のところにお邪魔していいの?」

「ゆかちゃんを邪魔だと思ったことなんてないよ」

「そういうこと言いたいわけじゃ、もう!かわいい!」


ぎゅうと抱きしめられて、ざわざわが消えていくのを感じた。

さっきのあれはなんだったんだろう。


「本当に、鈍いんだから」


なぜだか泣きそうな顔で苦笑されるその意味がわからないわたしは、反論できずに曖昧に笑った。

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