親友は学校のマドンナ
メールならまだしも着信かあ。
ドキドキしながら通話ボタンを押せば、開口一番、ひどい!と大声で叫ばれた。
『駒子!どうしてわたしが最初じゃないのよ!わたしはあなたの初めての人になりたかったのにー!』
「え?え?何の話?落ち着いてよ、ゆかちゃん」
『なにその態度!何にも知りませんってかわいい顔してみせたって許さないんだから!』
「いや、本当になんで怒ってるのかさっぱり…」
『天然!?天然なのね!やだ、駒ちゃんかわいい!はっ!だまされかけたわ…やるわね…』
どうしよう、この子、ひとりで盛り上がっちゃってる。
謎のテンションについていけずに戸惑う。
親友の西園寺紫は美少女だ。
それもそんじょそこらのかわいこちゃんではない。
男どころか女の子までもメロメロにしてしまう、誰もが認める美人さんだ。
文武両道にして才色兼備。
艶やかな長い黒髪をポニーテールにして、クールに立ち振る舞う。
ただし、わたしの前での彼女は、テンションが高く暴走しがちで意外と乙女ちっくだ。
地味で平凡なわたしを親友といって憚らず、顔を合わせれば最低でも五回はかわいいと言われる。
恐れ多くも親友ポジションをやらせていただいているこちらとしては、どうして彼女がここまで自分を好いてくれているのかはわからない。
掘りの深い美人さんだから、平坦な顔がめずらしかったのかな。
「ゆかちゃん何を怒ってるの?」
『…駒子、わたしに何か報告があるんじゃない?』
「え?あ…」
そこまで言われて思い当る。
もしかして、
「先輩と、付き合うことになったことを言ってるの?え?なんで知ってるの?」
『今日、委員会があって一緒に帰れなかったでしょう。駒子のいない放課後なんてつまらないと思いながら下駄箱に行ったら、噂してる女子がいたの。わたし、駒子から一番に聞きたかったのに』
それはわたしのせいなんだろうか。
帰り道でさっちゃんに会ったから先に彼に話してしまったけれど、ゆかちゃんには帰宅したらメールするつもりではいた。
けれどそう言っても彼女は納得しないだろう。
ゆかちゃんは何でも一番が大好きだから。
それにしても初めての人とか、知らない人が聞いたら誤解を生みそうなフレーズだ。
「報告遅れちゃってごめんね。ずっと片思いしてた湯浅先輩と付き合うことになりました」
噂になってるとか恥ずかしいなあと照れつつ言えば、電話の向こうで彼女が微笑んだ気配がした。
うれしい、自分のことみたいに喜んでくれてるんだ。
しかしお祝の言葉を待っていた耳に飛び込んできたのは、きっぱりとした二文字だった。
『イヤ』
「へ?」
『駒子の相手、二年の湯浅先輩。あんな男が駒子の彼氏になるなんてイヤ』
「ええええ!?片思いしてるとき応援してくれてたじゃん!」
『だって恋する駒子がかわいかったんだもん。でもだめよ、あの先輩じゃ駒子の相手には役不足よ』
「ひどい!そんなことないもん!大体役不足っていうならわたしのほうで…」
『やめて。わたしの大好きな駒子を駒子自身が否定しないで。あなたはいつも自分を過小評価しすぎよ』
ぴしゃりと言われて思わず黙った。
でも、それこそ過大評価だ。
『…駒子が泣くのは見たくない』
切ない声は魔性の響きを待っていて、女のわたしでもきゅんと胸が締め付けられる。
はっきりした物言いで冷たいと誤解されることもある彼女だけど、本当はとっても優しい。けれど、
『というわけで別れて』
今度はわたしが「イヤ」と言う番だった。