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わたし「は」普通

今日は今まで生きてきた人生の中で一番輝かしい日だわ!

わたし、穂波駒子ほなみこまこはテンション高く空に向かってばんざいした。

これがはしゃがずにいられるだろうか。

否、いられるわけがない!反語!

だって生まれて初めての彼氏が出来たんだもの!

スキップしたい思いをどうにか押さえて、緩む頬で帰り道を辿る。

いつもの何の変哲もない家へ続く道なのに、今日はいつもより色鮮やかに見えた。

うきうきと心を躍らせていると、よく見知った背中が目に入り、喜び勇んで飛びつく。

飛びつかれた背中の持ち主は驚いた顔をして、けれどわたしだとわかると柔和な笑みを浮かべた。


「こまちゃん、ずいぶん機嫌いいね」

「えへへ、わかっちゃうかな、さっちゃん」


さっちゃんこと、卓巳皐月たくみさつきくんはお隣に住むご近所さんだ。

淡く茶色に染めた髪に、すらりと伸びた背、どこぞのモデルかと見まごうほどのルックスのいい彼は、幼馴染の欲目から見なくてもとっても格好いい。

優しくて面白くて、ある意味兄たちよりも頼りになるさっちゃんは、目を細めて何かあったのと聞いてくる。

だれかに話したくて堪らなかったわたしは、兄たちにはとてもじゃないが打ち明けられそうにないので、彼に一番に報告することにした。


「実はですね、彼氏ができまして」


えへへと笑えば、さっちゃんは笑顔のまま固まった。

そして、よく聞こえなかったのか、ん?と首を傾げる。

こちらとしては何度言っても言い足りないくらいなので、駄目もとで告白してみたらOKもらって、念願の彼氏が出来たんだよ、ともう一度素敵な台詞を口にした。

うんうん、彼氏ってなんて心ときめくフレーズなんだろう。


「…………そっか。おめでとう」

「ありがとう!」


なんだか随分間が合った気がするけど、さっちゃんはそう言って祝ってくれた。

本当にいい幼馴染だ。

それにしても彼は尋常じゃないくらいモテモテだというのに、ふしぎと浮いた話を聞いたことがない。

さっちゃんくらいのレベルとなると、釣り合う女の子があまりいないのかなあ。

自然と隣に並んで帰り道を歩きながら、どんな子が好きなのかなあと思う。

自分が幸せを彼にも分けてあげたいなと浮かれながら。


「そういえば、武くんと良ちゃんにはもう話したの?」


何気なく尋ねられたそれに思わず足を止める。

じろりと隣を睨めば、苦笑が返って来た。


「ごめん。言えるわけ、ないよね」


わたしと幼馴染なさっちゃんは、もちろんうちの兄二人とも幼馴染なわけで。

穂波家の長男と次男を、その妹と同じくらい理解しているといっても過言ではない。


「言えるわけ、ないよ」


長男の穂波武ほなみたけしは、人当たりも良く穏やかな性格で、癒し系イケメンとご近所さんからも評判がいい。

二十歳のとき新進気鋭の画家としてデビューをし、五年経った今では筆一本で食べていけるほどの腕前を持っている。

さらに才能は絵だけには留まらず、絶対音感の持ち主で、休日は昔の仲間とストリートダンサーをやっていたりと、恐ろしく芸の幅が広い。

学生時代は美少女かと見まごうほど可憐な、ふわふわしたボブヘアだったのに、今では茶髪にして刈り上げている。

理由は楽だから、らしい。手抜きに見えるそれさえたけ兄がすれば驚くほどスタイリッシュだ。


次男の穂波良ほなみりょうは、甘いマスクにハニーボイスの持ち主の爽やか系イケメンだ。

一流大学を卒業した後、これまた一流企業にストレートに就職をし、エリートの名をほしいままにしている。

完璧に見えて意外と天然なところもあり、そのギャップにご近所さんはメロメロである。

学生時代はやんちゃで金髪にしていたが、いまは黒髪に戻し少しだけ毛先を遊ばせている。

実を言うとそれはおしゃれではなくただの寝癖なのだが、りょう兄がやると決まって見えるのでふしぎだ。


そんなハイスペックな兄の唯一の欠点。

それが、わたし、駒子だった。


そう、二人は残念すぎるほどシスターコンプレックスなのである。

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