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なんとか洞窟を抜け出すことができたが、息つく暇もなく恵の目にとんでもないものが見えた。集落の北側にある山が、赤く燃え盛る火を噴出していたのだ。
「あれ、見て!」
恵は、亀裂が入った山の斜面から、噴出した溶岩が木々を飲み込んでいる場所を指差した。一滴の水が大きな水溜りになるように、じわじわと溶岩が大きく広がっている。
「まずいな、このままでは集落が」
そのまま自分を置いて駆け出そうとするエルティオを恵は慌てて止めた。
「離せ、恵。このままだと集落が溶岩に飲み込まれる。溶岩の流れの向きを変えないと」
集落を救う方法はそれしかないだろう。恵もエルティオの言う通りだと思った。しかしここには二人と二匹しかいないのだ。それもちゃんとした力が使えるのはクーリしかいない。そんな状況で、目の前で起こっていることに太刀打ちできるわけがない。
「無茶だよ、一人でどうにかできるわけないじゃない」
「だからと言って、何もしないわけにはいかない」
恵は、エルティオが投げやりに言っているのかと勘ぐった。だが、そうではないらしい。
「こんな場所からどうするのよ?」
「溶岩の流れを西側の海へ向かわせる。そうすれば、集落は残る。幸いにも、海まで道ができている。そこに壁を作れば」
溶岩の流れを見下ろすことのできる場所まで移動すると、エルティオはクーリに視線をやった。心話だろう。すぐにクーリが道の横に岩の壁を摘み始めた。それを眺めていた恵の脳裏に、家のそばにあった排水溝が過ぎった。雨水を下水道に流す原理を使えば、溶岩も流れやすくなるのではないだろうか。
「小梅、クーリ君が作ってる壁を壊さないように、道に穴を掘ることってできる?」
うろちょろせずにそばに座っている小梅に、恵は自分の閃きを告げた。だが、小梅には難しかったらしい。首を傾げたままの小梅にわかるように、恵は道を指差した。
「あの道だよ、小梅。あの道全部、畑でやったみたいに穴を掘るの」
小梅は了解した、と言わんばかりに元気な声を出した。直後、恵の言う通りに道に穴を掘り始める。それは、集落の畑で畝を立てたときと同じ方法だった。
「上手、小梅。あっ、その土は壁側に置いてね」
小梅の力によって道そのものが、巨大な畝となりつつある。その力の大きさと、小梅が力を使っている姿にエルティオは驚いているようだった。口の開閉を繰り返し、変化している道を指差したまま恵の方を見ては道を見る。それを繰り返していた。いい加減疲れるのではないかと恵がエルティオを止めようとしたときである。兵士たちの声が聞こえてきた。良く見ると、兵士だけではなく集落の民も後ろから、ゆっくりではあるが着いてきている。
「エルティオ様」
シィローディアの声に、エルティオが正気に戻ったようだ。咳払いをすると、恵から少し離れ近づいてくるシィローディアの方へ歩いて行った。
「シィローディア、なぜ民を王都へ向かわせなかった」
足元に跪いたシィローディアを睨みながら、エルティオが言葉を発する。命令に叛いたシィローディアへの苛立ちを抑えようとしているのか、低く小さな声だった。
「申し訳ありません」
言い訳もせず頭を下げるシィローディアを庇う声が聞こえた。




