7-9
「それが終わったら、この岩をどけてくれ」
エルティオの声が止むと、二人がいる空間が一瞬にして静まりかえった。自分の息遣いとエルティオの息遣いが妙に大きく聞こえる。その事実がさらに恵を緊張させた。
(何で私こんなにドキドキしてるの)
胸の高鳴りがエルティオに聞こえてしまうのではないかと、考えるだけで恵の顔は熱くなった。恵はエルティオと目が合う前に顔を下に向けた。
「よし、いいぞ、クーリ」
「えっ?」
恵が一人で悶々としている間に、岩が排除されていたらしい。小さな穴から光が入ってきた。少しずつその穴が大きくなる。貴族がいた部屋の家具が見えてきた頃には、小梅の元気な姿も認識できるようになった。
「小梅!」
小梅の無事が目に見えてわかり、恵は嬉しさの余り小梅を呼んでしまった。
「ワン」
小梅も恵の声に反応して、こちらに向かってこようとする。そんな小梅を、クーリが体と声を使って遮った。
「ガウッ」
小梅を叱っているクーリを止めようとした瞬間、恵の襟が後ろに引っ張られる。喉が締めつけられ咽ていた恵の頭上に、エルティオの怒鳴り声が落ちてきた。
「会えた喜びはここを出てからにしろ!」
「うっ、ごめんなさい。小梅もごめんね。この岩がなくなったらそっちに行くから、それまで待ってて」
向こう側にいる小梅もクーリに怒られたからか、なんとなく情けない顔に見えた。だが、恵の言葉を聞いて嬉しそうに小梅が返事をする。それと同時に、岩が片付けられるスピードが早くなった気がした。恵の気のせいかとも思ったが、エルティオも驚いていたのでスピードが上がったのだろう。
「あいつ、魔法が? いや、まさかな」
エルティオの呟きが聞こえてきた。しかしすぐに考え込むようにエルティオは黙ってしまったので、恵は何も言わず岩が撤去されていくのを見ていた。
それからしばらくして、人が通れるくらいの穴が開くと、考え事をしていたはずのエルティオの声が聞こえてきた。
「よし、これくらいで充分だ」
「行ってもいいの?」
エルティオの了承の言葉を待ちきれず、恵は小梅の元へ転がるようにかけて行った。恵と同じように駆け出してきた小梅は、そのまま恵の足元に飛び掛る。だが、感動の再会はすぐに中断させられた。再び、地面が揺れたのだ。
「早く脱出しないと、この洞窟自体が埋まるぞ」
恵に向かって手を差し伸べながら、エルティオは先を促す。恵はその手を当たり前のようにとった。
「小梅、ここから出よう」
先へ進んでいたクーリの後を小梅が着いて行く。それを確認してから、恵はエルティオの顔を見た。
「行くぞ」
エルティオの言葉に頷き、恵も走り出した。
地面が揺れる頻度が多くなるにつれて、揺れ自体も大きくなっていった。走っていても足が縺れて、なかなか思うように進まない。そのたびにエルティオが力強く手を引っ張って恵を支えてくれた。




