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犬神様の乳母  作者: 高木一
7、大団円までの道のり
72/81

7-7

「なっ、何事だ」


「アリギロス・ネクシィーヤ・トリファ、窃盗、拉致監禁、強制労働の罪で貴方をこれより捕縛します」

シィローディアの声が聞こえた。先ほど、クーリが扉を粉砕した音が合図だったのだろう。


「何だと。貴様は何者だ! 一体何を根拠に」


 冷静なシィローディアの声と、うるさく喚き散らす貴族の声が耳に入ってくる。エルティオはそれを静かに聞いていた。


「こちらが証拠になります」


「ふん、こんなもの! ユーナ」


「ワン」


 ボワッと何かが燃える音が聞こえた後、焼け焦げた臭いが恵のいる場所まで届いた。


「わしを誰だと思うとる。貴様らの捏造なんぞ、すぐに王が見破る」


 足掻き続ける貴族に対して苛立ったのか、エルティオの舌打ちが聞こえてきた。額に血管を浮き上がらせている姿を目にし、恵はゴクリと唾を飲み込む。触らぬ神に崇りなしという諺の通り、恵は、倉庫を静かに出て行くエルティオを見送った。


 立ち込めた粉が収まると、部屋の中がよく見えた。


 洞窟の中にいることを忘れてしまいそうな、重厚な家具がたくさん見える。そして、場違いなほど華美な服を着ている貴族の姿も確認できた。山葵の中にもみじおろしが混ざったような丸いピアスが変に浮いている。食べる物に困ったことがないのだろう。体のいたる所に余分な肉がついていた。


「ほう、俺が集めた証拠が捏造だと?」


「誰だ」


 その部屋の主は、突然登場した侵入者に驚きを隠せないようだった。ぎょろっとした大きな瞳がエルティオとシィローディアの間を行ったり来たりしている。それをあざ笑うようにエルティオが言葉を発した。


「はっ、貴様は仕える王の顔もわからぬのか。それで良くトリファの名が言えたものだ」


 エルティオの言葉に、貴族は飛び出しそうなほど目を見開いた。貴族の顔が一気に青褪めていくのがわかる。エルティオはそれを気にすることなく尚も言葉を続けた。


「俺が直々に貴様を捕縛しにきてやった。ありがたく思うのだな……。シィローディア、こいつを捕縛しろ」


「はっ」


 両腕を兵士に拘束されると、正気に戻ったのか再び貴族は暴れだした。


「は、放せ。放すんじゃ。王よ、わしを捕らえれば、貴方様は後悔なさる。今なら、なかったことにしましょうぞ」


 食い下がる貴族の顔は、自分が助かると信じて疑っていないようだった。なぜそこまで自信があるのか。恵は不思議に思った。


「後悔? おもしろい。ぜひとも、してみたいものだな」


 侮蔑するような冷たい視線を向けた後、エルティオはせせら笑う。


「お前には、これから相応の罰を与えてやる。これまでの行いを悔い改めるがいい」


 どう見ても貴族の方が不利にしか見えなかった。それなのに、貴族の顔は悔しがっていない。むしろどこか楽しんでいるようにも見えた。


「仕方ありませんな。では、早速に後悔していただきましょう。ユーナ」


「ワウォン」


 こちらに向かって走って来る半獣に恵は驚いた。ここに何かあるのだろうか。


「恵、そこから離れろ! クーリ!」


 貴族のすることを察したのか、貴族の半獣の後ろからエルティオとクーリがやってくる。恵はエルティオの言う通りに小梅を促して部屋を出た。






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