7-5
洞窟の中は、恵が思っていたよりも天上が高く、兵士たちが横に三人並んでも余裕があった。それでもむき出しの壁を見ると、恵は息苦しく感じた。
二列に並んだ兵士たちに前後を挟まれる配置で、エルティオとクーリが先へ進む。先頭の兵士たちがその先を調べに行っているため、実際はエルティオたちが先頭となっていた。恵と小梅はその後ろを歩いている。すぐ後ろに、イギーとジェドの姿があった。
いつ借りたのか、イギーとジェドも兵士と同じ鎧を身に着けている。鎧に慣れていないのだろう。窮屈そうに見えた。緊張しているのか、恵が話しかけても素っ気ない返事しか返ってこなかった。
奥へ進めば進むほど吐く息が白くなる。等間隔に吊るされているランプに明かりが灯されているため、それほど暗さを感じない。しかし、どこからともなく吹く風に揺れるランプが、恵には不気味に見えた。他に人がいるから歩くことができているが、恵一人だったら洞窟の中に入ろうとすら思わなかっただろう。
洞窟に入ってから何度も枝分かれした道に遭遇した。その都度、あらかじめ地図を見ていたのかエルティオの足取りは迷うことなく先へと進む。
どこを歩いているのかわからなくなった頃、偵察に行っていた兵士の一人が戻ってきた。
「エルティオ様、ここより救出班と討伐班の分岐点となります」
「わかった。クリジア」
エルティオの言葉に最後尾から一人の兵士が近づいてきた。一見して兵士には見えないほど華奢な体格をしている。しかし人懐っこい笑みを浮かべたまま、颯爽と歩く鎧姿は誰よりも着こなしているように見えた。鎧に着られている状態のイギーとは全く比べものにならない。
「この男を連れて行け。この男の顔を見れば、収容されている民の警戒心も解けるだろう」
「はっ」
エルティオは跪いて応えるクリジアを見て頷くと、イギーへ視線を移した。
「イギー、この男の後を着いて行けば大丈夫だ」
「ありがとうございます」
突然話しかけられたことに驚いたのか、イギーの声は裏返っていた。エルティオは頷きだけでイギーの言葉に応えると、こちらの方へ視線を向けた。
「恵、お前もイギーの後に着いて行け」
「やだ」
間髪入れない拒否に、エルティオは理解できない、というような表情をした。
「お前、集落の民を助けたいんじゃないのか?」
「そうだけど。そっちの方はイギーもいるし、救出班の人たちに任せれば問題ないでしょう。だから私は討伐班に着いて行く」
集落を出る前は、集落の民を助けたいと思っていた。だから内緒で着いてきた。今もその気持ちは強い。しかしそれ以上に、こんなことをしでかした犯人が気になった。恵が行ったところで犯人が簡単に捕縛できるとは思っていない。むしろ足手まといになるだろう。それはわかっているが、どうしても会ってみたかった。そして見てみたかった。エルティオがどう対応するのか。
恵は視線を逸らさずエルティオを見ていた。ここで視線を逸らしてしまえば、自分の意見は通らないだろう。半ば睨みつけるような勢いだったかもしれない。それが効いたのか、エルティオは深い溜息をついた後、恵から視線を逸らし小梅の方へ向いた。
(勝った!)
勝ち負けではないと重々わかっている。それでもエルティオに勝利した気分になった。
エルティオが何も言わず小梅を見つめている間、恵はイギーに話しかけた。
「気をつけてね」
「ああ、アンタも邪魔するんじゃねーぞ」
緊張が解れたのか、イギーの口調は元に戻っていた。ぶっきらぼうな言葉とは裏腹に、恵を見ている瞳は優しい。それが気をつけろと言っているようで。恵は嬉しくなり笑顔で頷いた。
「これより、救出班はクリジアの後を着いて行け。残りの討伐班は俺の後に着いて来い」
エルティオの言葉に兵士達の揃った声が聞こえる。その声に、恵の気が引き締まる思いがした。




