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犬神様の乳母  作者: 高木一
7、大団円までの道のり
69/81

7-4

「誰だっ!」


 兵士たちは腰にある剣の柄に手をかけた状態で、一斉に恵たちの隠れている方へ振り返った。その統一された機敏な動きと、溢れ出る気迫に息を呑み込んだ。このまま動かないでいれば見つからずにすむだろうか。息遣いすら聞こえないようにと、恵は両手を口に当てゆっくりと呑み込んだ息を吐き出した。


「出て来い! そこにいるのはわかっているんだぞ」


 動こうとしない恵に業を煮やしたのか、兵士たちの一人がこちらへ向かって来る。今更元来た道へ、見つからないように戻ることは無理だ。


「もう、小梅のバカ。見つかっちゃったじゃない」


 隣でのほほんと座っている小梅の姿を見ながら、恵は投げやり気味に覚悟を決めた。


「娘、そこで何をしている」


 切っ先の尖った剣をこちらに向け、兵士は立ち止まってこちらを見た。今にも人を切りそうな目つきの兵士と、歯をむき出しにして威嚇する半獣。恵は自身の恐怖よりも先に、小梅を守るように抱きかかえていた。


「あーっと、その……」


 自分は無害だと伝えたいのだが、無意味な言葉しか出てこない。そこへ別の声が聞こえてきた。


「何事だ」


「はっ、小娘が一人紛れ込んでおりました」


 少し離れた場所で恵を囲むよう立っていた兵士が道を開くように両端に避ける。すると、真ん中から恵の見知った顔がやって来た。


 エルティオが恵の存在を認めると驚いたように瞳を見開く。そして、すぐに眉間に皺を寄せ、睨みつけてきた。


「お前はここで何をしてる」


 静かに、だが、凍りつくほど冷たい声が聞こえた。昨日少しだけ打ち解けたと思ったのだが、あれは自分の夢だったのかもしれない。明らかに怒っているエルティオに、恵は愛想笑いしかできなかった。それがエルティオの怒りを余計に煽ってしまったらしい。


「何をしているのかと、聞いているんだ」


 鼓膜が痺れるほどの怒鳴り声に、恵は萎縮して何も言えなくなる。恵に抱えられている小梅は、それを感じ取ったらしい。恵を守るようにエルティオを威嚇した。


 小梅の唸り声に、エルティオは冷静さを取り戻したようだ。エルティオは苦笑混じりに話しかけてきた。


「そう、怒るな。恵に危害を加えようとしているわけでない」


 先ほどより優しくなったエルティオの口調に、恵の強張りも解れる。


「大丈夫よ、小梅。ありがとう」


 早くなった鼓動を落ち着かせるため、小梅の背中に額をつけた。恵の鼓動が落ちつき始めるのと同じくらいに、小梅の逆立った毛が元に戻るのがわかる。


「あの、ごめんなさい。どうしても気になって」


 恵が落ち着くのを黙って待ってくれているエルティオに、申し訳ない気持ちになった。騙し討ちのような自分の行動に、腹を立てるのは当然だ。だけど、どうしても着いて行きたかった。


「邪魔はしないから、小梅と大人しくしてるから、私たちも一緒に連れて行ってください。お願いします」


 小梅を抱えたまま恵は、エルティオに頭を下げた。イギーと同じことをやっても効果はないかもしれない。でも、自然と頭を下げていた。


 頭を下げてから数秒だろうか。頭上からエルティオの盛大な溜息が聞こえた。


「何かあった場合、一番に逃げることを約束しろ」


 恵はその言葉に勢いよく顔を上げた。


「うん。逃げる。誰よりも先に逃げる」


 嬉しくて笑顔になった恵の目に、苦笑しているエルティオの姿が映った。






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