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犬神様の乳母  作者: 高木一
6、嫌い、が変わるとき
63/81

6-8

「そうか。そんな集落が……」


 小梅の味方をしている自分の話など聞かない人だと思っていた。それなのに、今は黙って恵の言葉を聞いてくれる。それが嬉しかった。しかし、同時に考え込んでしまったエルティオを見て不安になる。王が止めさせると言えば、問題は解決するものだと思っていた。それなのにその言葉が出てこない。連れて行かれた人を呼び戻すことは難しいのだろうか。


「俺は、その先にある洞窟を調べるためにここへ来た」


 いきなり話し始めたエルティオの言葉に恵の頭がついていかなかった。


(どうして)


 仔神側にいる自分の話など信じてもらえないのだろうか。先ほど喜んだ分、余計に悔しかった。恵はエルティオに文句を言おうとする。だが、真摯な瞳を向けているエルティオを見たとたん、吐き出すはずの言葉を飲み込んだ。


「この辺り一体は王族が所有する土地で、俺の許しがなければ入ることはできない」


 エルティオの言葉に恵は血の気が下がった。もしかして、自分は告発した形になってしまったのだろうか。自分のせいで彼らがこれ以上辛い思いをするのは嫌だった。なんとか阻止しようと恵は口を開く。


「しゅ、集落の人は悪くないの。だって、あの人たちは、小梅が……あの人たちを」


 小梅がしたことの被害者だとわかっているのに、口に出すのが怖かった。言ってしまえば、それが本当なのだと認めているようで。認めなくてはいけないのだとわかっていても言えない自分が恵は哀しくて、情けなかった。そんな自分を見られるのが恥ずかしくて、恵はエルティオから目を外して下を向く。


「そうではない。その集落の民は問題ない」


 落ち込んだ恵に驚いたのか、エルティオが焦ったように言葉を続けた。


「問題なのは、身寄りのない者を集め勝手に洞窟を掘って、私腹を肥やしているやつのことだ」


「えっ?」


「先ほど言っただろう。俺は洞窟を調べに来たと」


 自分の話を聞いてもらえなかったというショックと、その後に続いた言葉で忘れていた。


「なかなか尻尾を出さなかったが少しずつ調べ上げ、証拠も揃った。だが、強制労働をさせられている民がどこから集められているのかが、わからなかった」


「それじゃあ」


「ああ。既に兵がこちらに向かっている。お前の言う、連れて行かれた民たちは明日、救出する」


「それは、本当か!」


 嬉しさの余り万歳をして叫ぼうとした恵より一瞬早く、別の場所から声が聞こえてきた。






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