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犬神様の乳母  作者: 高木一
6、嫌い、が変わるとき
60/81

6-5

「今、何て言ったんですか? もう一度言ってください」


 あの後すぐにイエリアに会い、恵はイエリアの家を貸してもらった。自分が連れてこられた経緯を話すには、ヘリアのいる家ではできない。幸いにも、ヘリアの世話をするためイエリアが家を空ける時間帯がある。それを恵は覚えていた。


「メグちゃんは誘拐されたんだよ。それなのにどうしてそんなこと言うの?」


「それはここでは言わないで。イエリアもヘリア婆ちゃんもそのことは知らないの。それにね、二人とも、とっても良い人なの」


 紫の声に恵は慌てて訂正を入れる。しかし、紫はもちろんのこと翠も納得できないような表情をこちらに向けていた。それは仕方のないことだろう。恵だって、誰かが誘拐された場所でそんなことを言われたら翠たちと同じように思う。いや、問答無用で連れて帰るかもしれない。それなのに、彼らは恵の言葉をちゃんと聞こうとしてくれている。恵が年上だからということもあるのだろう。だが、それ以上に人の話をちゃんと聞ける子たちなのだ。恵はそんな彼らに感謝の念を抱きながら、自分が感じたことを話し始めた。


「ここね、七十五年前に起きた天災で家族と生き別れた子供や老人が集まってできた場所なんだって。その天災にね、小梅が関わってるんだ」


 恵の言葉に、黙って聞いていた翠たちの息を吸い込む音が聞こえた。大きく開けてこちらを見ている三人の目は、本当なのかと問うているようで。恵は静かに頷いて見せた。


「元々が充分に働けない子供たちや老人たちだったから、ここに住んでる人たちがやっと食べていけるだけの分しか作れなかったんだって。それがあるとき、お役人さんが税金の代わりにって動くことのできる人を連れて行ってしまったらしいの」


「そんな」


 紫が哀しげな声で小さく呟くのが聞こえた。


「さっき私が立ってた場所なんだと思う? あれ畑なんだよ」


「畑? でも何にも生えてなかったよ」


 翠と紫に習って静かに聴いていた藍が声を裏返らせながら言葉を発した。


「残った人たちで頑張った結果があれなの。私ね、市場の見学のときも考えていたんだけど」


 逸らすことなく三人の目が恵を見ている。恵は少し気恥ずかしく感じたが話を続けた。






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