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「ゾイちゃーん、どこ行くの?」
結局、最後までイギーはやって来なかった。
話が一段落した頃、日が沈みかける前に恵は散策に出かけたいと二人に話した。もっとこの集落をよく知りたいと思ったからだ。何より、小梅との散歩の時間が欲しかった。
幼い頃から習慣づいているせいで、恵はどこにいても小梅との散歩を欠かすことができない体質になっている。何も知らない二人は、そんな恵の頼みをすぐに了承してくれた。しかも道に不慣れな恵を心配してイエリアがゾイを案内役につけてくれた。
今恵たちは、そのゾイの後ろをついて歩いている。出かける前、イエリアと心話でもしていたのかもしれない。
ゾイは、集落のすぐ傍にある小高い丘のような森の中を案内してくれている。その先に目的地があるのだろうか。ゴールを目指すランナーのように、寄り道をすることもなく先へと進んでいる。
(なんでこんなに歩きにくいの……)
微かに獣道だとわかるような道を、ゾイに遅れないように歩くことだけで精一杯だった。恵に周りを見る余裕はなかった。ここでゾイを見失ってしまえば、また迷子になってしまう。そうならないよう、必死にゾイの後を追った。小梅はというとそんな恵とは裏腹に、リードを外されたことが嬉しかったのか、それとも草の柔らかい感触が気持ち良いのか。恵を置いて、お尻を振りながら前を歩いている。
しばらくすると、開けた場所に出た。沈みかけているオレンジ色の日に染められた湖がキラキラと光っているのが見える。立ち止まり恵たちを待っていたゾイを追い抜いて、恵は駆け出した。
「わあ、綺麗。小梅すごいね。大きな太陽が地面に埋まっているみたい」
ここが目的地なのだろうか。恵の脇を通り抜けゾイは我先にと湖の水を飲み始めた。良い感じに喉が渇いていた恵も、その湖に近寄る。オレンジ色だった水は、近づくにつれ澄んだ青色に変わった。
「あれ? ぬるいや、この水。湖って冷たくないのかな?」
日の光で温かくなったのだろうか。隣に来ていた小梅とゾイに向かって言うが、ゾイはもちろんのこと小梅も首を傾げるだけで何も応えない。だが、恵の言葉を確認するかのように小梅も湖に口をつけた。そのときである。
小梅は何かの気配を察したのか、気配がした方を向いて唸り始めた。その声に恵も小梅が視線を向けている方へ目を移す。
恵たちの来た場所とは違う、開けた場所と獣道の境界線に半獣が立っていた。黒に近い灰色をした毛を全身に纏っているその半獣に恵は見覚えがあった。




