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「あの、さっき、あの人じゃなくて、イギーさんに聞いたんですけど、王様に言わないんですか?」
「何を?」
恵の突然の話題に、ヘリアは不思議そうな顔をした。
「あの、税金の代わりに動ける人が連れて行かれたって」
「まぁ、イギーったらそんなこと言ったの?」
ヘリアは、仕方ないわね、とでも言うように溜息を吐いた。その表情に恵はまずいことを言ってしまったかもしれないと後悔する。だが、恵がこの話をなかったことにする前にヘリアが話し始めてしまった。
「そうね。言えたら何か変わるかもしれないわね。だけど、まだその時期じゃないわ。もう少しこの地が安定してからじゃないと」
「時期?」
「ええ。この国はまだ色々と大変だから」
ヘリアが指している大変なこととは、きっと小梅が残した爪あとのことだろう。これから先も、必ず聞くことになる。そう覚悟はしていた。それでもいざ聞いてしまうと、胸を刺すような痛みが広がる。いつか、この痛みに慣れる日が来るのだろうか。
「連れて行かれてしまった子たちには申し訳ないけど、もう少しだけ頑張ってもらうわ。大丈夫、あの子たちも残った子たちも強いから」
そう告げるヘリアの眼差しは柔和な雰囲気からは想像もつかないほど力強いものだった。これが年の功というものなのだろうか。何があってもヘリアに着いて行けば大丈夫。そんな気に恵はなった。
「連れて行かれてしまった人って、どこへ行かされたか知ってますか?」
応えたのはヘリアではなく、イエリアだった。
「この集落を出ると、洞窟があるの。その洞窟で何かを採掘してるんだって」
イエリアの言葉は、誰かの受け売りをそのまま伝えているように恵は感じた。それが、どれだけ大変なことなのか全くわかっていないようだ。それに対しヘリアは思うことがあるのか、眉間に皺を寄せ何かを考えているようだった。その表情が気になり、恵が尋ねようとした、そのときである。
微かに自分の体が揺れているような気がして、恵はすぐさま地面に手を突いた。しかし、それと同時に周りに置いてある家具が音を鳴らし始めた。
「地震?」
どうやら自分がではなく、大地そのものが揺れているらしい。
「ときたま揺れるのよ」
「揺れも小さいし、すぐ収まるから平気だよ。それに、ゾイがアタシの傍に来ないから大丈夫」
小さいとはいっても、恵が体感するほどの大きさだ。恵は一人慌てたが、ヘリアはもちろんのことイエリアさえ落ち着いていた。そのあまりに慣れた様子の二人を見て、恵の背筋を寒気にも似た何かが走った。こんな日常をいつも過ごしているのだろうか。
「やっぱり、仔神が力を使えないから」
「何かのせいにするのはおよしなさい」
恵の小さな呟きに、ヘリアの声が被さって聞こえてきた。下を向いていた顔を上げると、真っ直ぐにこちらを見ているヘリアと目があった。
「犬神様や仔神様は凄いお方だわ。でも、だからといって何でもできるわけではないのよ。何でもできてしまったら、ワタシたちの存在なんていらなくなってしまうわ。そうでしょう? 神ができない部分をワタシたちが力を合わせて補う。そうやってこの世界は生きてきたのよ。そして今も生きてるわ」
何でもないことのように話すヘリアの言葉に恵は胸が震えるほど感動した。恵は、いつの間にか全ての責任を小梅と一緒に背負おうとしていたことに気がつく。それはそれで、とても大事なことなのかもしれない。だが、何も力を持っていない恵には到底無理な話だ。だから何もできない自分に無力感を抱いた。でもヘリアの言葉で目が覚めた。周りを巻き込んで小梅を立派な仔神しよう。そして、小梅のした爪あとを少しずつ元に戻していこう。その最初の一歩がこの集落だ。この場所でできることを探そう。恵は隣で、大人しくお座りをしてこちらを見ている小梅を見て、新たに決意した。




