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「ヘリア婆ちゃん、ただいま。お姉さん連れてきたよ」
イエリアに連れてこられて入った場所で、一人の老婆が恵たちを迎えてくれた。横になっていたのだろうか、後ろで一つに束ねられている白髪の毛が所々ほつれている。
「あら、やだ。こんな格好でごめんなさいね」
恵が本当に来るとは思っていなかったようだ。慌てた様子のヘリアは恥ずかしそうにグレイのベストを羽織った。
目尻に皺が沢山作られたヘリアの笑顔を見ると、なぜだか恵はホッとした。
「いえ、あの、突然ごめんなさい。お邪魔します」
「お客様は大歓迎だわ。そちらに座ってくださいな」
イエリアの家と同じような造りのはずなのに、全く中が違って見えた。壁に掛っている布のせいなのだろう。若々しくて明るい暖色系が多かったイエリアの家とは違い、ここは落ち着いた茶色やクリーム色などの色が目立った。家具類の位置や形もイエリアの家と同じようなのに、それすらも違ったように見える。
恵はヘリアに促され、ふかふかのクッションが敷き詰められている場所へ座った。その後を追うようについてきた小梅も恵から離れたくないのか、その隣に座る。
「ふふふ。あなたの半獣さんは、あなたが大好きなのね」
小梅の行動を見ていたヘリアが優しく微笑みながらこちらを見た。
「そうだと嬉しいです。あ、私、篠山恵って言います。この仔は小梅です」
「あら、やだ。自己紹介していなかったわね。ワタシはヘリア。あそこで寝ている仔が、ワタシの半獣のサンスよ」
ヘリアが指差す方に、丸くなっている白っぽい毛の塊が見えた。半獣のベッドなのだろうか。木で出来ている小さな長椅子の様なものだった。恵は、イエリアの家でゾイが寝そべっていたことを思い出す。敷き詰められている布は違うようだが、土台は同じようだ。
「サンスはいっつも寝てばかりいる。だから、ゾイも真似して寝てばっかり」
お茶の用意をしているイエリアがそう告げた。室内の中央にあるのは、コン炉のような物だろうか。火がくべられている。その隣には小さな机が置かれているから、きっとそこで料理を作ったりするのだろう。
「そういえば、ゾイちゃんは?」
恵の声に反応したのかサンスが寝ている場所から、濃い赤茶色の耳がひょっこりと出た。サンスが丸まっている向こう側に、ゾイがいるらしい。
「一緒に寝てるんじゃない。ゾイはサンスが大好きなんだ。ゾイだけじゃないよ。ジェドも、この集落にいる皆も、サンスが大好きなんだよ」
「サンスも皆が大好きよ。もちろんワタシも、ね」
お茶を持ってきたイエリアに向かって、ヘリアがウィンクをして応える。そんなヘリアの行動が恵には意外だった。そもそも恵の祖母はヘリアのように、ピアスをつけていない。自分の祖母よりも年寄りに見えるヘリアの行動や会話は、恵の年老いた人のイメージを随分と覆した。だがそれは全く違和感なく、むしろヘリアらしさが出ているように恵には見えた。
こんなに親しみやすいヘリアなら、色々と聞けるかもしれない。恵は、イギーとの会話を思い出した。さっきの話が本当なら何か自分にできることはないだろうか。ここに連れて来られてから、より一層そんな気持ちが増した。




