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「保護されるのが当たり前な奴らが寄せ集まったもんだから、本当に最初は何もできなかったんだ。それでも何とか生活できるようになった」
昔を語るイギーの表情は、どこか楽しげだった。
「そんな矢先だっ」
先ほどの表情は怒りで歪められる。イギーは怒りの矛先を地面にぶつけるように蹴りつけた。
小梅が原因の何かがあったのだろうか。エルティオの言葉が胸を突く。恵は、あれからことあるごとに何でも小梅と結びつけてしまうようになっていた。
「どっ、どうなったの?」
知りたい気持ちと反比例するように聞きたくない気持ちで一杯だった。恵は恐怖にも似た気持ちを隠しながらイギーの話を聞く。
「貴族だがなんだか知らないお役人が税金を納めろとか言ってきやがったんだ。食うだけで精一杯のオレたちに何ができるっていうんだ。なぁ、アンタもそう思うだろう?」
あれだけかまえていた分、恵は拍子抜けした気分になった。返答に困っている恵を、イギーは続きを促していると勘違いしたようだ。
「こともあろうに、動ける奴らを税金の代わりだとか言って連れてっちまったんだぜ」
「そんな」
「だろう? でも、オレらに楯突く力なんかないから泣き寝入りだよ。んで、結果がコレ。動けない奴らや小さ過ぎる奴が残って集落は荒んでいったってわけ」
恵の同意を得たからか、イギーはなおも話を続けた。
「それでも、婆ちゃんが元気だったからなんとかなったんだ。この畑だって今よりもちゃんと育ってたんだぜ」
作物が実らない茶色の大地を指してイギーが笑顔で言った。その当時を思い出したのか、どこか懐かしそうな顔をしている。それもつかの間、急にしゃがみ込み辛そうにするイギーの顔に、恵も眉を顰めたくなった。
「オレさ、婆ちゃんが辛そうにしてたのわかってたんだよ。だけど、金がねーオレには、滋養のつくもんだって買えねーし。ましてや、医者にだって診せらんねー」
渇いた土を手に取っては、その土を滑らせる。その動作をずっと繰り返しているイギーを恵は黙って見ていた。
「だから、アンタを誘拐した。オレだって悪いことしてるってわかってんだよ。だけど、それで婆ちゃんが助かるんならオレはなんだってしてやる。この集落には婆ちゃんが必要なんだ」
手を固く握った後、イギーはその場から立ち上がる。そして真剣な瞳で恵を見つめてきた。そんなイギーに対して恵は、貼りついたように動かなくなった唇を開くことができなかった。




