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太陽が真上にある頃に誘拐されたが、あれからそんなに時間は経っていなかったらしい。出入り口の布をめくった途端、恵は眩しさのあまり目を瞑る。
「何してんだ? 目を瞑りたいほどヒドイっていいたいのか?」
止まったままでいる恵を不思議に思ったのか、イギーが戻ってきた。
「違うわよっ。って、何ここ?」
なんとか治まってきた眩しさに目を開けてイギーに反論する。しかし、映った景色を見て、恵はイギーへの文句も忘れて固まってしまった。
そこは酷く荒れ果てた場所だった。イギーの言葉通り目を瞑りたくなるほどだったが、恵は必死で堪えた。それはイギーへの対抗心だったのかもしれない。
風が吹けば土ぼこりが起きそうな大地の上に、申し訳程度に生えている緑。何の作物なのかもわからないが、その緑すらすでに朽ちかけて茶色になりつつあった。元々が畑をする場所ではなかったのかもしれない。ところどころに大きな石や折れた木々が無雑作に横たわっていた。
恵は何も考えず歩き出した。なんとか作物を作ろうとした形跡が残っている。恵自身、作物などあまり作ったことがないからよくわからない。だが、全ての作物が失敗に終わっていることだけはわかった。この集落にいる人がどのくらいいるのかは知らないが、人が食べられる物がちゃんと収穫できたのだろうか。そう疑いたくなるほどの有様だった。
畑の周りを囲むように十個くらいのゲルが見える。その全てが市場で見た物よりみすぼらしく恵の目には映った。薄汚れたゲルを覆う布は至る所に継ぎ接ぎがしてある。しかしその継ぎ接ぎも不慣れだったのか、それとも時が経ったのか。既にほつれて布が捲れ始めていた。恵自身、ゲルの中から出て来なかったら人が住んでいるとは思わなかっただろう。
「おかえりー」
あっという間に一周してしまったようだ。恵の帰りを待っていたとでも言うように、イギーが片手を挙げて恵を迎えた。
「ここの現状はわかってもらえたようだな」
どうしてこの状態で笑顔になれるのだろうか。イギーの態度が不思議でしょうがなかった。
「さっきの続きな。この現状から見てもわかる通り、明日食べるのにも困ってるんだよ。でも、金が欲しいのはそれが理由じゃない」
これが理由でも恵は充分納得ができた。それなのに彼は違うという。一体次はどんな話が待ち受けているのか、恵はイギーの話を聞くのが怖くなった。
「婆ちゃんが病気なんだよ」
イギーから出てきた言葉は意外と普通の話だった。あの部屋の中で言われていたら、それは大変な話だと思っただろう。だが、この現状を見た今、地球でもよく聞くような話をするとは想像もしていなかった。
「お婆さん?」
「ああ。といっても血の繋がりはないがな。七十五年前に起きた天災のことはもちろんアンタも覚えているだろう? この集落は、その天災で親をなくした孤児や頼るものがいない老人とか、身体が不自由な奴が寄せ集まってできたものなんだ」
(あー、やっぱり……)
うすうすは感づいていた。いつかは、その話に繋がってしまうと。恵は胸の内で、いつも隣にいるはずの小梅の名前を呟いた。
今も根強く残っている天災の爪あと。それは小梅が引き起こしてしまった一部だ。その事実が恵の心に重く圧し掛かる。しかし、そのことを知らないイギーは恵の変化など気づくはずもなく話を進めていた。




