5-2
「おいしい」
暖かいそのお茶は、プーアール茶によく似た味わいをしていた。寒いと感じてはいなかったが、冷えていたのかもしれない。飲むたびに恵の体を、芯から暖めてくれた。
イエリアは美味しくお茶を飲む恵を、嬉しそうな笑顔で眺めていた。その状況がなんとなく気恥ずかしく思い、恵が何か話をしようとしたときだ。この部屋唯一の扉が開く。それと同時に聞こえてきた男性の声に、恵は体をビクつかせた。
「イエリア。ありがとうな」
入ってきたのは、恵を誘拐した青年とその半獣だった。家主の了承もなく部屋に入ると、そのまま敷物が敷いてある場所に座る。それは丁度恵が寝かされていたベッドの傍だった。
あらかじめイエリアが用意しておいたのだろう。恵に出された物と同じお茶を勝手に自分で注いで飲み始めた。
「イエリア。悪いが、ちょっと席を外してもらえるか? これからこの人と話をしたい」
お茶を飲み干して一息ついたのか、イエリアの方を向いて誘拐犯が口を開く。果たしてこの男と二人になっても大丈夫なのだろうか。恵の脳裏にそんな考えが過ぎった。だが、イエリアに真実を聞かせるわけにはいかない。たった数分前に出会ったばかりだが、この優しい少女を悲しませるのは嫌だった。
「アタシも一緒じゃダメなの?」
「悪いな」
「仕方ないな。じゃあ、アタシはヘリア婆ちゃんの様子でも見てくるよ」
この会話だけを聞いていたらイエリアの方が年上だと思ってしまうだろう。それほど、イエリアの話し方は大人びていた。
「お姉さん、また後でね」
「うん。お茶、ご馳走様」
イエリアが出て行った後、音が聞こえなくなった。そう錯覚するほど部屋中の音がなくなったように感じた。
恵は青年から離れようと、少しずつ隅っこの方へと移動する。ある程度間合いの取れる距離になったところで口を開こうとした。だが、いざ説明を求めようと思っても、何から切り出したらいいのか言葉が上手く見つからない。そんな空気を破ったのは、地べたに胡坐をかいたままこちらを見ている青年の暢気な声だった。
「まずは、自己紹介でもするか?」
そのあまりにも空気を読まない青年の態度に、恵は苛立った。
「そんなことよりもここどこ? 早く町に帰して」
「まあまあ、時間は沢山あるんだ。慌てなさんなって。まずは自己紹介。オレはイギー。で、こいつはジェド」
素直に名前を言う気にはなれなかった。恵は反抗の意を表すように、イギーを黙ったまま睨みつけた。しかし、そんなこちらの態度をイギーは全く気にしていないようだ。
「まあ、いいや。それで、オレがなんでアンタを誘拐したか知りたいか?」
「知りたいに決まってるでしょ」
どう対応すればいいのか。自分のペースに持って行きたくも、イギーの方が何倍も上手らしい。全く恵のペースにならない。まだ、話を始めたばかりだというのに、恵は既に疲れ切っていた。




