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「お姉さん、ひょっとして迷子?」
右眉毛に緑色の水あめを練り上げたようなピアスをつけた青年が、話しかけてきた。肩くらいまで伸びた赤茶色の髪を後ろで一つに束ねているため、左耳の上部につけているピアスも良く見える。
普段だったら、軽い感じがする彼のようなタイプが声をかけてきても無視をしている。しかし、心細くなっていた恵の胸に警戒心というものはなくなっていた。
「そうなんです」
人の存在を確認できたことに安心し、恵は自然と笑顔を向けていた。
「じゃあ、オレが案内してあげるよ」
青年は左耳にある眉毛につけている石と同じ色のピアスをいじりながら、子供のような笑顔を向けてきた。
「良かった。お願いします」
来た道を戻るのだろう。恵の後方を指差してた。
(これで皆と合流できる)
恵は心底安堵した。だが、彼の考えは違っていたらしい。
「うん。俺の住んでる集落までだけどな」
「え?」
青年に背中を向けた途端、両手を背中で縛られる。
「ちょっと、え? 何?」
恵は背中に感じる青年の気配に鳥肌が立った。この不快感を取り除きたい。恵は夢中でもがき始めた。動くたびに手首と肩に痛みが走り、青年の締めつけが強くなる。口は塞がれていないのだから、大きな声を出せばよかった。しかし、気が動転していた恵にはそんな考えすら浮かばない。
「ジェド、眠りを」
青年の言葉を了承するように、足元から低い音が聞こえてきた。
青年の半獣だろうか。さっきまで、半獣の姿はなかったはずなのに。もしかしたら、近くに潜んでいたのかもしれない。黒い毛が多く、靴下を履いているように足元に白い毛が生えていた。小梅より幾分大きく見える。
「ウォフ」
その声を聞いた瞬間、全く眠くなかったはずの恵は急速に眠気に襲われる。必死に開こうとしても、重たくなる瞼に抗うことはできなかった。
意識が薄れていく中、恵は最後に小梅の名前を呟いた。




