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犬神様の乳母  作者: 高木一
4、いつもと違う日常
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4-7

 恵は沈んでいた気持ちなど忘れて、聞き返していた。


「仔神様がお目覚めってどういうことですか?」


「お嬢さん知らないのかい? なんでも、あの天災の最中に、天災を鎮めるためティヒア様はお眠りに就いたそうだよ。天災のためとはいえ、仔神様が出ていらっしゃらないのは辛かったねー」


 そんな話は聞いたことがない。だが、これはいい機会かもしれない。仔神という存在をどう思っているのか。恵の存在を知っている人に聞いたところでそれは本心とは限らない。だから、聞いてみたくなった。ただの客として見ているこの女性に。


「仔神様に会いたかったですか?」


「あんた、何言ってんだい? 当たり前だろ、そんなこと。罰当たりな子だねー」


 やはり誰にとっても大切な存在なのだろうか。想像していたよりも反感を買ってしまったようで恵は慌てて謝罪をする。


「すっ、すみません。でも、皆さんが大変なときに仔神様は何もしてくれなかったじゃないですか」


「全くこれだから、最近の若い子は! 仔神様の偉大さをわかってないんだから。いいかい、エルティオ様や王族の方々も尊いお方たちだけどね。仔神様はもっと尊いお方なんだからね。天災だって、仔神様がお眠りになったから縮小されたんであって、あのままだったらどうなっていたことか」


「でも、あれは……」


「そんなことばかりいってると犬神様に咬まれちまうよ。さあさあ、買わないならとっとと余所へ行っておくれ」


 どうやら国民には本当のことを告げていないらしい。なぜ、真実を伝えなかったのだろう。


(王様は仔神を憎んでいるんじゃないの?)


 エルティオの考えが知りたい。恵は、あっちへ行けと未だに手の甲を振り続けている女性を尻目に、そんなことを思った。


「そう言えば、紫ちゃんみんなと連絡取れた? ってあれ?」


 そのまま人混みの中に舞い戻った形となった恵は紫を思い出し、話しかける。だが繋いでいたはずの手はいつの間にか解かれ、恵は一人で人混みの中に紛れ込んでしまっていた。その瞬間、一気に恵の額に脂汗が噴出した。


「どうしよう。あれほど井上さんに注意されたのに紫ちゃんの手、放しちゃった。と、とりあえず、この流れから外れないとダメな気がする」


 気を落ち着かせようと、恵は独り言を呟きながら打開策を模索していく。なんとか流れから反れるように歩くこと少し。やっとのことで立ち止まれた場所は、薄暗く陰気な路地裏のような場所だった。


「これもこれで、ダメな気がする」


 人混みから抜けた開放感から、しばらく何も考えず歩いてしまったのがいけなかったのだろう。今いる場所には人の気配もなければ、半獣の姿も見当たらなかった。元に戻ろうにも、既にどこから来たのかわからなくなっている状態だ。突如襲ってきた孤独感に、恵は道の真ん中で立ち尽くしてしまった。






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