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店が立ち並ぶ通路に入った途端、どこからともなく勧誘の声が飛び交ってくる。店先に並んでいる物が、よく見えるようになった。何でできているのか、鮮やかな小物類が置いてある店。素朴だが、綺麗に染め上がっている洋服。見たことのない野菜や果物。生きたままの鶏に似ている鳥。香辛料だろうか、麻袋一杯に入っている粉類。遠くの方からは食欲をそそる臭いが漂ってくる。
立ち止まってじっくり店を眺めたかったが、人の波に圧され、それはできなかった。
「すごい、人だね」
紫に話しかけているはずが、この喧騒で独り言になってしまっていた。すでに井上や翠たち、そして傍にいたはずの半獣たちの姿は見えない。恵は紫の手を放さないようにすることだけで精一杯だった。
「恵ちゃん、キサラギの心話が聞こえづらいから止まってもいい?」
紫の言い方は電波が入りにくいときに交わすのと良く似ていた。携帯と似たようなものなのかもしれない。恵も丁度立ち止まりたいと思っていたところだったので早々に了承する。
「じゃあ、あのお店屋さんの前に行こう」
周りの喧騒で自分の声が聞き取れないだろうと、恵は紫の耳元で大きな声を出した。声が聞こえないと判断したのか、紫は人差し指と親指をくっつけて了解のサインを出す。
流れに少しずつ逆らうようにして、たどり着いた場所は小物売りの前だった。どこの店も、店先部分になるところは人の流れが緩やかになっているようだ。キサラギとの心話に集中している紫の邪魔をしないように、恵は店に置かれている商品を見始めた。
ペンたてのような筒状の物や、小物入れのような箱がいくつも並んである。周りをフェルトのようなもので覆っているので、ほんわかするような優しさを感じた。色も何種類かあり、どの色にしようか目移りしそうだ。じっくり吟味するように眺めている恵の耳に誰かの声が聞こえてきた。
「いらっしゃい」
商品に夢中になりすぎて全く気づかなかったが、ふっくらした体格の年配の女性が恵に笑いかけている。店の人だろうか。この騒がしい中でも良く通る大きな声だ。こげ茶色の髪は、綺麗に後ろで編みこまれている。どこか人懐っこいその笑顔に恵は自然と話しかけていた。
「すごい人ですね」
「そうだね。でも、昔はもっとすごかったんだよ。それもこれも、先代様が身罷れた原因となった天災のせいさ」
そのときのことを思い出したのか、彼女の顔から笑顔が消えた。
「あのときは、あたしも駄目かと思ったよ。でもエルティオ様が小さな体で一生懸命頑張って下さったから、あたしらも頑張らなきゃ犬神様に咬みつかれちまうよ。って、ここらの奴らで言ったもんさ」
女性が話をするたびに、恵は身につまされる気持ちになる。恵の表情が強張ったのがわかったのだろうか。恵を勇気づけるように、陽気な声で話を続けた。
「まだまだ、これからだよ。仔神様もやっとお目覚め下さったことだし。これからどんどん、ボイジー国は賑やかになってくことだろうよ」
女性が話した内容の中に、気になる言葉があった。




