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「この中にこちらの貨幣。つまりお金が入っています。まず中身を出して確かめてください」
井上の片手にすっぽりと収まりきる小袋の一つを、恵は両手で受け取った。想像していたよりも、ずっしりと重たい。
恵は紫にも見えるように手を下ろして、中身の飛び出し防止のために縛られているこげ茶色の紐を解いた。小袋の中にはくすんだ十円玉のような色をした穴の空いた丸い物が十枚くらい入っている。
「これが、キニギアースで使われているお金です。この、三角形の穴が空いているコインを一ルマといいます。これ一枚で大きなパンが五つは買えるでしょう」
「パパー、四角い穴のやつがあるよ」
翠の手のひらにあったコインの中から藍がその一枚を取り出す。その表情は宝物を見せつけるような得意げな顔をしている。
「よく見つけましたね、藍くん。それは、デルマといって一ルマの十枚分と同じ価値があります。その小袋には一ルマが十枚と一デルマが一枚入っているはずです。数えてみてください」
恵は小袋を紫に渡し一枚ずつ数えながら、恵の両手の上に置くようにお願いをする。手のひらに積もっていくコインをじっくり眺めた。十円玉のように絵が描かれているわけでもない。一目見ただけで偽造できてしまうのではないだろうか。恵はそんな邪推をした。
「そうそう、恵さんたちにはこれもプレゼントいたします」
井上から麻袋のような肩から掛けるバッグを渡される。袋自体の色は麻袋の色だったが、色とりどりのコーギーの刺繍が施されていた。
「カワイイ!」
刺繍が目に入った瞬間、恵は奇声を上げて喜んだ。
「はは、喜んで頂けて嬉しいですよ……」
井上の笑みが、若干引きつったようにも見えた。井上はゴホン、と咳払いをしたあと、再び口を開いた。
「翠くんのように男性用の服には帯があるので大丈夫ですが、女性用には帯はありませんからね」
恵は帯のあるなしで性別の判断ができることに驚いた。帯を締めてみたかっただけに少しだけ残念な気持ちになる。
「さて、では行きましょうか。あっ、大事なことを忘れていました」
誘導しようと井上はバスガイドのように片手を挙げる。しかしすぐにその手を下ろし、大きく手を叩いた。
「買い物をするときは必ず値切ってくださいね。もしくは、おまけを要望してください」
「えっ?」
井上の言葉に全員の声が重なった。いきなり何を言い出すのだろう。恵だけではなく、その場にいた全員が同じ思いを抱いたに違いない。
「日本ではあまりありませんでしたが、ここでは当たり前のことなんです。逆に値切らないと、裕福だと思われてしまい危険な目に遇う可能性が大きくなるので気をつけてくださいね」
冗談か何かと思っていた恵には、井上の言葉は衝撃的だった。どうやら笑い話ではすまないらしい。
(もしかして、ここって危ないところなのかな?)
一気に市場へ行きたいと思う意欲が削げ落ちる。しかしそんな恵の気分を払拭したのは、藍の言葉だった。
「わー、じゃあ、ボクいっぱいオマケもらっちゃおうっと」
買い物のことで頭がいっぱいな藍の元気な声に、恵は救われる。悪いことを考えるのではなく、良いことを考えよう。再び市場への期待が恵の中に蘇ってきた。
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