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恵が市場へ来られたのも、井上家の三兄弟のおかげだ。たまたま井上が子供たちに市場を案内するという情報を得たため、便乗させてもらったのだ。
「良いお返事です。まず、サツキとキサラギとヤヨイはホークから目を離さないこと。いいですね」
井上の声を聞いて、藍の両端に翠と紫が近づいてきた。
翠の出で立ちは、薄い抹茶色をした長衣。その下に茶色いズボンを履いている。翠も井上のように腰にズボンと同じ色の帯を巻いていた。翠が立っているとそれだけで、一本の木が聳えているように見える。対して、紫は満開に咲く桜の木のようだった。薄いピンクの長衣と裾の下から覗くこげ茶色のズボン。真ん中にいる藍を蕾だとしたら、三人ならんだだけで桜が開花するまでを楽しむことができる。恵は少し離れた位置に立って、そんな彼らを眺めていた。
「翠くんは、藍くんと手を繋いでくださいね。それと、サツキとシンワでお互いの確認を常にしてくださいね」
井上はホークと確認するかのように頷きあった後、翠の方を向いた。父親に頼まれたからなのか、翠は誇らしげに頷いている。
「任せてください。父さん」
「あー、それと」
井上の話が続く中、右手の袖が引っ張られる感触に恵は視線を移す。そこにはいつの間に近づいてきたのか、紫の姿があった。
「どうしたの、紫ちゃん?」
「大丈夫? メグちゃん?」
紫の言葉に恵はハッとした。顔に出していないつもりでいたが、出ていたのだろうか。
自分にできることは何か。考えれば考えるほど何も浮かばない。それが歯痒かった。市場の現状を聞いてしまった手前、恵の気持ちは沈むばかりだ。それを紫に気づかれてしまったのだろう。
子供はわかっていないようで、きちんとわかっている。特に紫は他の子よりも、そういった空気に敏感なのかもしれない。恵は誤魔化すことなく素直な気持ちを伝えた。
「心配してくれてありがとう紫ちゃん。何ができるかわからないけど、できることをやっていこうと思ってるの。でも、それが何かなかなか思いつかないんだ」
「じゃあ、紫も一緒に考えてあげる」
「ありがとう」
「うん。何がいいかなー」
一生懸命考え始める紫の姿に、恵の心は暖かくなる。同時に自分が何も知らないことに気づいた。漠然と考えても良い案を出せるはずがない。とりあえず今は市場に触れてみよう。考えることはそれからでも遅くはないはずだ。その思いつきが妙案に思えた。だからだろうか、力の抜けた恵は不意にあることを思い出した。




