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小梅を宥め、なんとか神殿の外を出ることができた恵は、眼下に広がる光景を見て驚いた。
(こんなに沢山の人がいたんだ)
ここに来てから恵が出会った人間は片手で数えるほどしかいない。それが今は数え切れないほど沢山の人が行き来しているのだ。しかも、それと同じ数の半獣。すなわちコーギーらしき姿が恵の瞳を輝かせた。
(どの仔からなでさせてもらおうかな? あー、早く傍に行きたい!)
賑わいを見せる人々に同調するのとは別に、恵は逸る気持ちを抑え切れないでいた。
少し高台に位置する場所から下を見下ろすと、市場が広がっている。幅は六mほどだろうか。そこを沢山の人と半獣が埋め尽くしている。道の両端には様々な物が、元気な声とともに出されていた。まるでお祭の屋台のようだ。
店の後ろにはゲルのようなテントが張られていた。そこに人々が住んでいるのだろうか。屋台の隙間から、子供たちが半獣たちとゲルの周りで遊んでいるのが見える。想像していたよりも活気がある。眩しいくらいの笑顔が溢れていることに恵は安堵した。
「先日、恵さんが崖の上からご覧になった場所は、実はボイジー国の城と城下町があった場所でした。残念ながらあの事故で人が住めなくなってしまい、こちらへ移り住んだようです」
突然、話を始めた井上の言葉に恵の心臓がドクリと鳴った。あの事故、すなわちそれは小梅の力が暴走した時のことを差していた。
「七十五年経った今でも建物が建っていないのは、建ててもすぐに地震で崩れてしまうからだそうです」
市場の上辺だけを見て安堵してしまった自分の甘い考えに恵は憤りを感じた。
「でも大丈夫ですよ。私たちボイジー国の民は強いですから。それに元々、遊牧民だった我々には建物の家よりも、あちらの方が住み慣れているのです」
気遣うように明るい声で話す井上を、恵は正面から見つめた。どんな服を着ていても彼の格好良さは変わらないようだ。サンドベージュの膝下まである長衣の腰部分に、こげ茶色の帯を巻いている。その下には、帯と同じこげ茶色のズボンを履いていた。地球での服装も違和感がなかったが、こちらの服装も全く違和感なく着こなしている。それは浮かぶ笑顔が同じだからだろうか。恵は井上の優しさに、涙が出そうになる。
「井上さん。私。何ができるかわからないですけど、小梅と一緒に頑張ります」
「ええ。お願いします。私も一緒に混ぜてくださいね」
本当に何もできないかもしれない。それなのに井上は、恵を優しく受け入れてくれた。それが嬉しくて、恵は笑顔になる。そこへ藍が近づいてきた。
「パパー、メグ姉ちゃーん、早く行こうよー、ボクここ飽きたー」
藍の力が抜けるような声に、笑いがこみ上げてくる。彼の無邪気さには誰も太刀打ちできないのだろう。井上が藍に向き合い肩を竦めて苦笑する姿は、仕方ないとでも言っているようだった。
「わかりましたよ、藍くん。それでは迷子にならないように、まずここでの決まりごとを話しましょう」
「はーい」
その場で飛び跳ねながら藍は元気よく返事をする。そのたびに、玉葱の皮のような色をした短めの長衣の裾が捲れ、下に履いている黒いズボンの腰紐まで丸見えになっていた。
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まだまだ物語は続きますが、これからもよろしくお願いいたします(●´ω`●)




