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小梅の過去を知ってから一週間が経った。あれから毎朝。エルティオに連れてこられた場所まで小梅と散歩をするのが恵の日課となっている。
いつもなら楽しそうに散歩をしている小梅だが、今朝はいつもと違っていた。前を歩く後ろ姿はどこか物悲しいような。不貞腐れているような。恵に毎回笑顔をもたらすハート型のお尻もどこか元気がないように見えた。
「小梅ー。いい加減に機嫌、直してよー」
この後の予定を知らされた昨日の夜から、ずっとこうなのだ。恵がいくら話しかけても小梅は無視をし続けていた。もう時間がない。だが、こんな状態の小梅を放っておくことは恵にはできなかった。
「仕方ないでしょう」
折り返し地点でもある、あの場所で立ち止まると恵は小梅の隣にしゃがみこんだ。
「小梅はまだ町には降りられませんって、オルクさんはともかくとして、オリスさんと井上さんに言われちゃったんだから」
恵は、小梅の頭をなでながら地面に座った。いつもの明るく、手触りの良い服を着ていたのなら地べたに座るなど考えもしなかっただろう。だが、今日着ている服は、これから町へ降りるということもあって質素な服装になっていた。少しごわつきを感じる薄い黄土色をした短めの長衣に、こげ茶色のズボンといった出で立ちである。これなら多少汚れても、目立つことはないだろう。
「クゥー、ワン、ワン」
小梅は座り込んだ恵の股の間に入り、恵に向かって哀しげな声を出した。恵は、その少し涙目の小梅を見て一瞬怯みそうになる。
(ここで負けちゃ、行けなくなる)
恵は、心を鬼にして諭すように口を開いた。
「そんなこと言ったって、小梅と一緒に行けるようになるのなんて、いつになるかわからないじゃない。ちゃんとお土産買ってくるから。ねっ」
お土産という単語に譲歩の兆しが見えてきた気がする。小梅の表情が先ほどより少しだけ明るくなったように恵には見えた。もう一押しすれば、機嫌が直るかもしれない。恵は、恨めしげに上目遣いをしてくる小梅の円らな瞳に屈しないよう奮起した。
「うっ、わ、わかったよ。まだ、時間があるからフリスビーでもなんでも小梅の好きな物で遊ぼう。それで今回は勘弁してください。お願いします」
「ウォフ」
土下座しそうな勢いの恵に、小梅は満足げに返事をする。恵の太腿をジャンプで飛び越え、元の道を戻って行った。
走り出した小梅にリードを引っ張られる形となった恵は、その場で寝転ぶ羽目となる。そのまま引き摺られるのを怖れた恵はリードをすぐさま放した。後を追うため起き上がると、すでに小梅の姿は小さくなっていた。
「現金だなー、もう。小梅ー、待ってよー。待ちなさーい」




