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犬神様の乳母  作者: 高木一
3、誰が悪いわけでもない
35/81

3-6

 作業場のような場所へはすぐにたどり着いた。作業場と言っても、木材と道具が無雑作に並べてある空き地のような場所だ。何人かの人がいたから作業場だとわかったが、誰もいなかったら素通りしていただろう。


「どんな機械を作ったんですか?」


「充電器を参考に、魔力を貯蓄できる機械が作ってみました。いかんせん、独学なもので予定より随分と

 大きくなってしまったんですがね」


 井上が指差した物は確かに大きかった。というよりは大き過ぎた。恵が知っている充電器は持ち運べるくらいの大きさだ。それが恵の目に映った充電器らしい物体は、恵の部屋を丸ごと飲み込めるくらいの大きさだった。


「まあ、ボイジー国の魔力を貯蓄するのですから、これでは小さ過ぎるかもしれませんがね」


 確かに家庭用のそれと、業務用のそれとでは大きさが違うのも頷ける。恵は井上の説明を黙って聞いていた。


「あっ」


 井上が指差した方向に、先ほど別れたエルティオの姿が見えた。図面のようなものを広げ、傍にいる人と何か話している。その顔は真剣そのものだった。


「あの後、こちらにいらしたんですね。私の発明に大変興味を抱いてくださったようで」


 井上の言葉に恵は目を瞠った。


 小梅に対して怒りをぶつけることしかできない人だと思っていたが、国と民のためになるならば未知の物でも柔軟に取り込もうとすることができる人だったようだ。それは、隔たりなく作業場に溶け込んでいるエルティオを見れば一目瞭然だ。どうしてその融通さを小梅に向けてくれないのだろうか。国と民を傷つけたこの仔を憎む気持ちもわからないでもない。だが、何もできない小梅にどうすればよかったというのだ。当事者じゃない恵の甘い考えなのかもしれないが、恵はそう思わずにはいられなかった。


「ブロード、この充電器とやらをもう少し小さくすることは……何しに来た」


 図面を見ていたため、井上の背後にいる恵に気づかなかったのだろう。穏やかな声が恵の存在に気づいたとたん厳しいものに変わった。先ほどの怒りを引きずっているのか、眉間に皺を寄せている。その子供のような態度が、恵の癪に障った。


「別に王様に用はありません。井上さんに勧められて来ただけですから、おかまいなく」


「ふん、ブロード、なぜそんな奴を連れてきた、破壊されたらどうするのだ」


 汚い物でも見るかのようなエルティオの目つきに、井上も呆れているようだ。溜息をついてエルティオを宥める。


「エルティオ様、小梅ちゃんも恵さんもそんなことはいたしませんよ」


「なぜ、そこまでそいつらを信用できるのだブロード? この国を捨てた奴だぞ」


「エルティオ様のおっしゃる通りならば、わたくしも国を捨てた民だということになります」


「民と神では責任の重さが違う」


 エルティオの言葉が恵には理不尽にしか思えなかった。オリスに見せてもらった映像には王と仔神が力を合わせていた。それなのになぜ、全ての責任を仔神である小梅に負わせようとするのだろう。エルティオの、そんな考え方が恵の怒りを徐々に増幅させていった。






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